先祖返りの町作り
第210話 名軍師
解放軍が華々しく出陣した直後、
私は解放軍の致命的な問題に気付き、
頭を抱える羽目になる。
自分が直接指揮する部隊には、
きちんと兵站を整えていた。
しかし、それ以外の方面軍の将軍達は、
兵糧の輸送の必要性さえも、
全く理解していなかったのだ。
そのため、急遽主だった幕僚達を集め、
緊急の幕僚会議を開く。
(これは、
長い間戦争をしてこなかった弊害でしょうね。
兵站の必要性等の用兵の知識が、
全くないようです)
最初に、認識を改めさせる。
「この聖戦は、
小規模で短期間の小競り合いではありません。
大規模で長期間の本物の戦争です」
一つ一つ丁寧に、兵站の考え方を伝える。
「戦争をするためには、
入念な前準備こそが最も大切です」
兵糧の大切さを説明する。
「どんな精鋭でも、
食べ物がなければまともに戦えません」
補給の大切さを説明する。
「また、十分な医療物資等もなければ、
長期間は戦えません」
続けて兵站の概念を説明する。
「そのため、
必要十分な量の各種物資を運ぶための、
街道の経路等をまずは決めます。
これを補給線と言います。
また、これらの概念を『兵站』と言います。
戦争するためには、この『兵站』を、
何よりも最優先で整備しなくてはなりません」
こうして、
強固な補給線を構築する大切さを、
理解してもらった。
それから一週間後。
ようやく、解放軍全軍の兵站が、
急ごしらえではあるが整備された。
そして次に私は、
ボウエンキョウを積極的に活用した、
大規模な偵察部隊を編成し、
各地区の方面軍の全部隊に配置した。
そのために、私は情報の大切さを説明する。
「彼を知り己を知れば百戦危うからず、
と言います。
私の故郷に古くから伝わる、
とても大切な格言です」
作戦立案の重要性を説明する。
「勝ってから戦いを始めるのが、
真の名将です。
そのため、前もって入念に下準備を重ね、
まずは勝ち易い状況を用意します。
そして、
勝ち易い時にきっちりと勝利するのが、
名将です。
ですから、戦う前に各種の情報を収集し、
状況を冷静に分析し、
十分に勝てる作戦を立案しなくてはなりません。
もし勝てる見込みのない相手であれば、
戦いをあらかじめ避けて、
他の方面軍と合流する等してください」
そのまま、真の名将について説明する。
「周囲から見ると、
簡単に勝てる戦いしかしていないように、
見えます。
そのため、凡将に見えるかもしれませんが、
これが常にできる人こそが、本物の名将です」
次に、戦いを終わらせるための、
大切な概念を伝える。
「貴族達が降伏してきたら、無益な殺生はせず、
そのまま捕虜として受け入れてください。
逃げ出しても、無理に追わなくても結構です」
とんでもない、皆殺しにすべきだと、
口々に声を荒げて反対する幕僚達。
「包囲は必ず欠く、と言います。
前もって逃げ道を用意しておけば、
自分達が不利だと判断したら、
その用意した方向に勝手に逃げてくれます。
その方が楽でしょう?」
なおも、
憎っくき貴族達を皆殺しにせよと主張する幕僚達。
その主張を否定し、その理由を丁寧に説明する。
「降伏してきた相手をもし皆殺しにしてしまうと、
相手は降伏しても無駄だと思い、
倒れるその瞬間まで、
死に物狂いで戦うでしょう。
そうなれば、こちらの被害も甚大になります。
最期まで頑強に抵抗される方が、
はるかに困るのです」
ここまでの説明で、
ようやく納得してくれたようだ。
そうすると、ある幕僚から感嘆の声が上がる。
「ここまでに教えていただいた、
軍を運用するための様々な知識は、
正に英知ですね」
別の幕僚からも称賛を受ける。
「さすがは、
ガイン自由都市を長らく発展させ続けてきた、
ヒデオ将軍の英知ですね」
これらの用兵の知識を活用してくれた、
各地域に派遣された方面軍も、
私が直接指揮する主力軍も、
連戦連勝を重ねる事になる。
その後にこの功績を称えられ、
私は「名軍師」という、
大変名誉な二つ名をいただく事になるのであった。