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先祖返りの町作り

第182話 魔石不足

蒸気機関の研究は、
ゆっくりとだが着実に進んでいた。

現在では、複数のシリンダーを連結した模型で、
実験が続いてる。

後はこれを徐々に大型化させ、
機関車に搭載できるように応用させるのが、
今後の目標である。

その一方で、ガイン自由都市では、
魔力もーたーの利用が進んでいた。

その影響で、魔石の需要が急拡大し、
価格の高騰が続いている。

中でも多くの魔力を含んでいる大型の魔石は、
需要が高く、不足が目立つようになっていた。

小型で大量の魔力を含む、
森の里で産出している魔石にいたっては、
もはや天井知らずと言って良いほど、
価値が上昇し続けている。

それらの要因により、
これまでは使い捨てにしていた、
魔石を回収する業者が現れるようになり、
再利用が進んでいる。

魔力の充填ができる、
少し多めの魔力持ちにとっては、
簡単に稼げる仕事が増えた。

ただ、ある程度以上魔力密度を高める事が、
ヒム族にとっては難しかったため、
低い密度で多くの魔力を込めることができる、
大型の魔石に人気が集まっている。

ヒム族でも、何日かに分けて充填すれば、
多くの魔力が込められたからだ。

再利用が進んだとはいえ、
まだまだ魔石の不足が目立っており、
領主館で議題になるほど問題化し始めていた。

その席で領主のイサミが、
私に相談を持ち掛けていた。

「大おじい様。森の隠れ里の皆さんに、
 もっと魔石を作って欲しいとお願いする事は、
 できませんか?」

私はしばらく考え、否定的な意見を述べる。

「お願いすれば、
 いくらかは増産してくれるでしょう。

 ですが、あなたも知っての通り、
 里の皆は無欲ですから、
 不足が解消できるほど大量生産してもらうのは、
 ちょっと難しいでしょうね」

私の結論を聞いた官僚達の間から、
ため息がこぼれる。

私は顎に手を当ててしばらく考え、
解決策を提案する。

「そうだ。クリスさんの里の皆に、
 お願いしてみてはどうでしょうか。

 あの里には鉄製品がありませんから、
 それと交換してもらう事を条件に、
 なんとか交渉してみましょう。

 ただ、あの島にはあまり魔物がいませんから、
 魔石はこちらから持ち込む必要がありますが」

イサミが皆を代表して、私に交渉を託す。

「それは良いアイデアです。
 その方向で大おじい様に交渉を、
 お願いしてもかまいませんか?」

私は大きく頷き、了承の意を伝える。

「ええ、もちろん。
 仕事を理由に堂々と恋人に会ってきますので、
 ちょっと日程に余裕さえもらえれば、
 喜んで飛んで行きますよ?」

私が大真面目な顔でそうのろけると、
少し笑いが起こった。