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先祖返りの町作り

第178話 生誕200周年祭

それから年を3つ跨いだ頃。

私はちょうど200歳になっていた。

100歳の時の私の不用意な発言から、
大規模なお祭り騒ぎになってしまっていたのを、
ちゃんと記憶していたため、
近年は年齢に関する話題は避けるようにしていた。

しかし、ガイン自由都市の郷土史の研究家が、
生誕200周年祭はしないのかと、
領主館に問い合わせをした事から、
結局大規模なお祝いが行われる事に、
なってしまっていた。

「できれば、こぢんまりとしたお祝いで、
 済ませて欲しいのですが……」

私はそう意見を述べ、
お祭り騒ぎをなんとか回避しようとしたが、
どうやら無駄な努力だったようだ。

そして今日。

大急ぎで行われた準備も終わり、
祭りの本番が行われていた。

既に昨日の間に、
近しいものだけを招待した、
お祝い会は終わっており、
粛々と祭りの開幕を告げるセレモニーが、
続いている。

そしてそのシメとして、
主役の私からのあいさつの出番が回って来た。

私は集まってくれた皆を少し見渡し、
静かに拡声の魔道具に向かって語り掛け始めた。

「皆さん。
 今日は私の200歳を祝う祭りに、
 これほど大規模に集まっていただき、
 本当にありがとうございます。

 100年前もこうして、
 大規模にお祝いをしていただきました。

 この領地と共にさらに100年歩めた事は、
 私にとって誇りになっています。

 長いようであっという間の100年間であったと、
 感じております」

そして私は少し、この100年間を振り返る。

「100年前、ここはまだガインの町でした。
 そこから皆さんのたゆまぬ努力により、
 この領地は、
 どんどんと加速度を増しながら、
 大きくなっていきました。

 その結果、
 現在では国一番の大都市と呼ばれています。

 まあ、お貴族様達はそれを認められないようで、
 ずっとガインの町と言い張っていますがね」

私が少し冗談めかしてそう言うと、
笑いが巻き起こった。

「これは40年前のこの領地の100周年の時にも、
 言わせてもらったのですが、
 私は今でも素晴らしいご縁に、
 恵まれ続けています。

 ただ、出会ったほとんどの人が、
 私を置いて旅立ってしまいました。

 しかし、この地を愛する皆さんの心は、
 親から子へ、子から孫へ、そして子孫へと、
 何一つ変わる事なく受け継がれています。

 この事実は、
 私にとって一番の自慢なのですよ?」

私はここで少し間を開け、周囲を見渡す。

皆一様に誇らしげな表情をしており、
この地を愛する気持ちが、
十分以上に伝わってくる。

私はそれに頷きを返し、ここで話題を変えて、
私の本心を初めて明かす事にする。

「そんな皆さんには大変申し訳ないのですが、
 私はいつかこの領地を去り、
 婚約者の元へと幸せをつかみに行きます」

私のこの宣言は、
領民達にとって爆弾発言だった模様で、
大きなどよめきが起こった。

ざわざわと場が落ち着かなくなったため、
私はあわてて火消しに移る。

「皆さん。落ち着いてください。
 なにも今すぐの事ではありません。

 いつか皆さんが十分に力を付け、
 私のささやかな助力がなくても、
 自分達だけで歩んでゆけると、
 そう判断した後の話です。

 おそらくは、50年以上先の話です」

私の説明に皆安堵の様子を見せ、
やっと場が落ち着いてきた。

私はざわめきが少し収まるまで、
間を開けて待ってから、続きを語る。

「いつか皆さんが、
 自分達だけで貴族の横暴に、
 対抗できるようになったその時は、
 申し訳ありませんが、
 私は自分自身の幸せを、
 優先させていただけませんか?」

私がそうお願いすると、
領民の誰かが声を張り上げた。

「いつまでも初代様に甘えっぱなしでは、
 我らはあまりにも情けないではないか!!

 今はまだ無理でも、いつか初代様が、
 安心してご結婚いただけるように、
 全力を尽くす事こそが!

 我ら領民のせめてもの恩返しではないか!!」

その声は思ったよりも響き渡り、
各所からそうだ、そうだと、
同意の声が上がり始めた。

私のわがままを許して欲しいというお願いを、
こうまで熱く応援してもらえる事実に、
思わず瞼の裏に、熱いものが溜まり始める。

「ありがとうございます。
 ありがとうございます」

私は感謝を述べる事しかできなくなっていた。

しばらくしてから進行役の人が、
そんな私を優しく宥めてくれて、
私はそっと退場した。

それが開幕の合図となったようで、
私にとっていつまでも忘れる事のできなくなった、
生誕200周年祭が始まったのであった。