先祖返りの町作り
第177話 本当の願い
それから2年が経過した頃。
魔力ジドウシャの運用ノウハウの積み重ねや、
問題点の改良が進んでいた。
今は馬車と歩行者で運用している、
シンゴウキの活用も次第に理解が進んでおり、
もう少し時を置けば、
都市内部での魔力ジドウシャの運用も、
許可される予定だ。
「魔力ジドウシャを使えば、
里帰りが簡単になりますね」
ある時、それに気付いた私は、
魔力効率を完全に無視した、
魔力ジドウシャの改造を始めた。
私自身が運転するので、
自作の魔石が使い放題であるし、
いつでもどこでも魔力の補充が可能だ。
まず、魔力もーたーの魔法式に手を加え、
パワーとスピードを大幅に強化した。
舗装されていない道を走るため、
車高を高くして走破性を高めた。
後部座席にあたる部分には、
これまた特別製の小型レイゾウコを設置し、
日持ちの関係でこれまでお土産にできなかった、
新しい食材等を持ち帰る事が可能になった。
ちなみに、
里帰りの際に持って帰ったぱうんどけーきは、
子供達に大好評であった。
車高を高めたため、
私はこの車を「じーぷ」と名付けたのだが、
皆は半ばあきれ顔をしながら、
「初代様専用機」と呼んでいる。
この専用機により、
悪路を走り抜けるにもかかわらず、
これまでの1/4以下の時間で、
シユス村に到着できるようになった。
バンパーや車体そのものも頑丈にしているため、
途中で魔物と遭遇しても、
そのまま跳ね飛ばせるようになったのも、
時間短縮に一役買っていた。
また、この専用機によって、
他の地域への旅行も簡単になったため、
これまで以上に頻繁に、
クリスさんに会いに出かけるようになった。
その結果、彼女もご満悦の様子で、
私もとても満足である。
ただ、これまで以上にイチャコラしている、
私達の様子を見せつけられる、
島の里の皆の視線が、
とても生暖かくなっていったが。
クリスさんは、
専用機の助手席に乗り込んでのドライブが、
とても気に入ったようだ。
「ヒデオ様。風を切って移動するのが、
これほど気持ち良いものとは知りませんでした。
もっともっとスピードを出してください」
クリスさんはスピード狂の素質があるようで、
何度も運転させてほしいとおねだりされた。
「クリスさん。魔力ジドウシャは、
使い方によっては凶器になるのです。
人をはねたら大惨事になりますので、
私の領地へ来た際に、
ちゃんと教習所に通って運転を学んでください。
運転はそれからでないと、許可できませんよ?」
私がそう説得すると、
いつも子供のように頬を膨らませて、
不満顔をする。
どうもクリスさんは、車の運転に関する事では、
少し子供っぽくなるようだ。
「うっ……」
その少し拗ねた表情があまりにもかわいらしくて、
私は思わず運転を交代しそうになったが、
ぐっと我慢して耐えていた。
そんな私の心の動きは、
彼女には手に取るように分かっているようで、
私の動揺した顔を見るために、
わざとやっている節すらある。
自分の心の内側で、
彼女の存在が大きくなり続けた結果、
私は深刻な悩みを抱えるようになっていた。
何もかも投げ捨ててしまって、
彼女と添い遂げてしまいたい。
そう、強く願うようになった。
そうなった後の生活を少し想像してみれば、
それだけでとても幸せな気持ちになってしまう。
しかし、
ここまで増大した平民の力をもってすれば、
もう少しだけ頑張れば、
私の壮大な野望も完遂できるはずだ。
(ここで無責任に投げ出してしまっては、
エストに指摘された、
私の責任が果たせなくなってしまいます)
私はそのように、
何度も繰り返し自分に言い聞かせ、
自分の願望をごまかし続けるのであった。