先祖返りの町作り
第162話 ゾウキンバクダン
セレスさんが積極的に手伝ってくれたため、
わずか1か月という短期間で、
硝酸が安定的に生産できるようになっていた。
そのため、私はヒデオ工房の工房長の部屋で、
火薬を作成するための思索にふけっていた。
「一番良いのは、
TNT火薬を作る事なのですが……」
TNT火薬を作るには、
ペンキの溶剤として有名なトルエンが必要である。
しかし、その入手方法を私は知らない。
TNT火薬とよく似た構造式で、
やはり火薬として使える物質として、
ピクリン酸がある。
これには、
消毒液として有名なフェノールが必要である。
これもやはり、入手方法が不明だ。
ニトログリセリンも同様の理由で作れない。
しばらくうなりながら考えを進める。
そして、額にいつの間にか浮いていた、
汗を拭おうとして、
なにげなく取り出したハンカチを見た時、
ひらめいた。
「そうだ。『ニトロセルロース』を作りましょう」
ニトロセルロースは主に弾薬に使われる火薬で、
無煙火薬とも呼ばれる。
そしてこの化学物質は、
植物性の繊維があれば作れる。
つまり極端な話、
木綿や麻の布でできた雑巾があれば、
爆弾が作れるのである。
私は早速ダイガクへと赴き、
ニトロセルロースの作成を開始した。
しかし思うように反応が進まず、
しばらく行き詰っていた。
その突破口は、やはり、
共同研究者のセレスさんからもたらされた。
「何かの溶剤に混ぜてから、
反応させてみてはいかがですか?」
それを聞いた私は、
セレスさんになじみ深い物質として、
硫酸を加えて反応させてみた。
そうすると、
安定して生産できるようになったのである。
こうして出来上がったニトロセルロースを使って、
最初に作ったのは導火線である。
ニトロセルロースと通常の繊維を混ぜて作成した。
これがなければ、
安全に実験が行えないためである。
そして爆破実験は、私が直接行った。
鉄製の壁の後ろで、
光盾の魔法を展開して安全を確保し、
火薬の量等を調整していった。
初期のものは質も悪かった模様で、
不発弾になるものも多かった。
不発のたびに火球の魔法を飛ばして、
爆破処理する必要が生じた。
また、保管場所等で、
暴発する危険性もあったため、
可能な限り少量ずつ生産し、
安定させるための基礎研究が、
しばらくの間は必要であった。
こうして完成した新兵器は、
私が何も考えずに、
「ゾウキンバクダン」と命名した。
ゾウキンバクダンは、
当初はダイナマイトのような筒型であったが、
ガイン自由都市軍の兵士に投げてもらった所、
遠くに投げるには形が悪いという指摘を受けた。
そのため、
今では手りゅう弾を模した形状に変更している。
こうして、セレスさんの多大な貢献により、
急ピッチで進んだ開発は、
焚書の報告を受けてから、
わずか1年ほどで終了した。