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先祖返りの町作り

第157話 許されざる蛮行

それから2年の時が流れた頃。

電池の開発は順調に進み、
蓄電池まで問題なく開発できていた。

硫酸の研究も思ったより進んでおり、
試験管レベルではあるが、
それなりに作成できるようになっていた。

そのため、
電解液を硫酸に変更しての研究にシフトしている。

研究が思ったよりも進んだため、
少し手の空いた私は、
リョウマの仕事のお手伝いに、
時間を割くようになっていた。

そんな折、
ある官僚が近隣の領地での気になる様子を、
報告し始めた。

平民達がガイン自由都市の事を、
国一番の大都市と称えている事が、
耳に入った模様で、
その領地の貴族は激怒したそうだ。

「たかが町にすぎないくせに、
 国一番の大都市とは何事かと激怒したそうです」

それを聞いて、リョウマが感想を述べる。

「えぇ……。貴族達はこの都市の規模を見ても、
 まだ町だと言い張っているのですか?」

私がそれに補足を加える。

「おそらく見た事もないのでしょう。
 見ると否定できなくなるので、
 プライド的に無理なのでしょうね」

私の指摘に皆が頷いている。
そして、官僚さんが報告を続ける。

「その貴族の取った行動ですが、
 まず平民の移動を、
 これまで以上に厳しく制限しました」

私はそれに対する感想を述べる。

「まあ、これ以上、
 この都市を発展させたくはないでしょうから、
 そこまでは予想の範囲内でしょうね」

私が冷静でいられたのは、ここまでだった。

「次に、ガイン自由都市で安く販売されている、
 各種参考書等の知識本を、
 有害図書として取り締まり、
 定期的に集めて燃やしているそうです」

「なっ……」

私は怒りのあまり、全身がワナワナと震えだし、
目の前が真っ赤に染まった。

この部屋には鏡がないため、
自分がどんな表情をしているのか確認できないが、
ほぼ間違いなく般若の形相をしている事だろう。

「お、大おじい様?
 なにも、そこまで怒らなく」

「馬鹿をおっしゃい!!
 『焚書』等、
 人類の英知に対する冒涜に他なりませんよ!!」

宥めようとしたリョウマの言葉を遮り、
私はこれまでの人生で出した事がないほどの、
大声で怒鳴っていた。

私も森アルク族の一員であるため、
普段は温厚だと思う。

そんな私のあまりにもな豹変ぶりに、
部屋中の人が思わず振り向いた。

リョマがおそるおそるといった様子で、
確認を取る。

「フ、フンショですか? それは、いったい……」

私は焚書がいかに愚かな行為であるかの、
説明を始める。

「その昔、政治的な批判が気に入らないからと、
 自分にとって、
 必要のない学問を全て滅ぼそうとした、
 史上最悪の暴君の一人がいました。

 書物を燃やし、知識人を生き埋めにしたのです。

 この最悪の暴挙を指して、
 『焚書坑儒』と言います」

この史上最悪の暴君とは、秦の始皇帝の事である。

とある漫画の影響で人気が出たようだが、
この馬鹿は、
古代中国を統一した後になってから本性を現した、
稀代の詐欺師でもある。

リョウマが質問を重ねる。

「その暴君は、どうなったのですか?」

「その愚か者が生きている間は、
 恐怖支配で国を保ちましたが、
 息子に代替わりすると、
 すぐに国中で反乱が多発し、
 あっという間に国が滅びました」

未だにワナワナと震えていたので、
ここで深呼吸をして少し落ち着く事にした。

「本を燃やしてしまうという行為は、
 知識を葬り去る事に他なりません。

 そして、一度でも失われてしまった知識は、
 取り戻すのに、
 膨大な時間と労力が必要になります。

 古代魔法文明の英知が失われてしまっている、
 現在の状況を考えれば明らかでしょう。

 お金が稼げる知識さえ残っていれば、
 金銀財宝はまた集める事もできます。

 ですから、
 どんな財宝よりも本の方が価値があるのです」

私はここでもう一度深呼吸を繰り返し、
一息入れてさらに心を落ち着かせる。

「『焚書』という蛮行は、
 人類を衰退させるためにしか役に立ちません。

 ですからその大馬鹿者の貴族は、
 許されざる大罪人です」

ここまで私の説明を皆黙って聞いていたが、
最初に報告していた官僚さんが、
その領地での様子を続けて語り始める。

「初代様。ちょっと落ち着いてください。
 そのフンショですが、
 平民の警備兵を使って行っているそうです」

私は彼が何を言いたいかが分からず、
思わずギロリと睨みつけてしまう。

「だから?」

私の棘のありすぎる態度に、
彼は若干怯んだ様子で続きを語る。

「で、ですから、
 取り締まっている側も平民ですので、
 表紙だけを取り換えた偽物を用意して、
 派手に燃やすパフォーマンスを、
 行っている模様です。

 そのため、実害はほとんどないそうです」

その報告を聞き、
私は思わず目をパチクリとさせる。

「そこだけは貴族の愚かさに助けられていますね。
 その領地の平民達の様子はどうなのですか?」

「締め付けが厳しくなっているので、
 不満がかなり増大している模様です。

 もしかすると、反乱が勃発するかもしれません」

それを聞き、
私は今後の対策について思いをはせる。

「では、私達は平民達を守るために、
 軍備の増強が必要になりそうですね。

 私は私のやり方で、
 何か方法がないか考えておきましょう」

私がやっと落ち着いたように見えた模様で、
皆安堵の溜息を吐いていた。

そして私の怒りが再燃する前にと、
皆急いで軍備増強の調整を始めたのであった。