先祖返りの町作り
第151話 六代目領主リョウマ
それから2年ほどが経過した頃。
昨年、ティータとフィーナは、
仲良く女児を出産していた。
出産前に二人から、
「生まれてくる子供が女の子だったら、
イサミとトシゾウの時に決めてもらっていた、
女の子の名前を与えてやって欲しいデス」
と、お願いされていたため、
予定通り私が命名した。
イサミの妹がシズカ、
トシゾウの妹がトモエである。
名前の由来は、平家物語に出てくる女性である、
静御前と巴御前である。
シズカとトモエの家族達は、
この名前をとても気に入ってくれたようだ。
シズカは金髪に茶色の瞳、
トモエは金髪に金色の瞳と、
やはりよく似た従妹達である。
そして今日。
55歳になっていたカズシゲは引退を決意し、
29歳になったリョウマに家督を譲った。
一族の伝統に則り、初代の私の前で、
エルクの教えを家訓として代々受け継いでいく。
わざわざ私の前で引き継ぎを行うのは、
この時の家訓が間違っていないかの、
確認の意味もあるそうだ。
そして、その家訓の最後に、
カズシゲが独自の追加を加えていた。
「大おじい様の教えの中には、
領主を引退した後の楽しみもあるのだよ?」
それを聞いたリョウマが、私に確認を取る。
「そうなのですか? 大おじい様」
私は首を振って否定する。
「何か特別な教えを、
残した覚えはないのですが……」
そう言ってカズシゲを見ると、
クスクスと笑って教えてくれた。
「孫達と遊んで暮らせば、
楽しく隠居生活を送れると、
言い伝えられています。
まあ確かに、特別な教えではありませんね」
それを聞いて、私はポンと手を打ち、
納得して答える。
「ああ。それなら確かに、
隠居後に暇を持て余しそうだと言った、
三代目領主のエストに言いましたね」
そうすると、カズシゲが笑顔のまま、
真相を教えてくれる。
「ええ。私もお父様からの伝聞なのですが、
エストおじい様からの教えでは、
このようにも伝えられているのですよ。
大おじい様にとって、私達子孫は、
いくつになっても子供の頃の印象が、
とても強いようなので、
お願いをする時は、
子供のようにおねだりをすると効果的だと」
「なるほど。確かに効果的なのは、
認めざるを得ませんね」
私が頷きながらそう言うと、
家族の中に優しい笑い声が上がる。
時は移り、子孫達が代替わりを繰り返しても、
ずっと変わらずに続いていく家族の営みと、
私への愛情の深さに、深い感謝の念を抱いた。
私は決して一人ではない。
例えこの子達が、
私を置いて旅立ってしまうとしても、
その子供や孫、そして子孫達が、
ずっと私と共にいてくれる。
子孫を見送る事だけは、
どうやっても慣れる事はないだろう。
しかし、寂しがる必要はないのだと、
気付かされた日であった。