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先祖返りの町作り

第113話 命名、カズシゲ

貴族連合軍との戦いが終結して、
1年ほどが経過した頃。

クレアさんが産気づいた。

出産の瞬間を待っていたシゲルは、
表情こそ普通のものだったが、
足がせわしなく貧乏ゆすりしているのを、
家族達はツッコミもせずに眺めていた。

初産にしてはとても安産だったらしく、
しばらくして、無事に男の子が生まれた。

クレアさん譲りの銀髪で、茶色い瞳の、
鳴き声が元気な活発そうな赤ちゃんだ。

私が部屋に入った時には、
満面の笑顔で我が子を抱くシゲルが、
頑張った自分の妻をこれでもかと、
褒めたたえていた。

まだ結婚したくないと言っていた、
かつてのシゲルと、
同一人物とは思えないほどの愛妻家ぶりに、
やはり、
子供の存在は大きいのだなと実感した。

シゲルは抱いていた我が子を、
私に抱かせてくれると、
満面の笑顔を浮かべたまま、
恐怖のお願いをする。

「私はひいおじい様に付けてもらった、
 この名前がとても気に入っているのですよ。

 ですから、ぜひともこの子にも、
 ひいおじい様から名前を授けてください。

 私やひいおじい様のような、
 雰囲気のある名前をお願いしますよ?」

今度はシゲルからの無茶ぶりに、
私は頭を抱えたくなったが、
抱いている赤ちゃんを投げ出す事もできず、
ピキリと音がしそうなほど、
硬直してしまっていた。

それから3日ほど悩みに悩み、
さんざん考えた挙句、
「シゲル」のような名前という事で、
「カズシゲ」と命名した。

どこかのプロ野球の名選手の息子を、
思い出した訳ではない。
断じてない。

私はこの時、自らのネーミングセンスに、
完全に絶望していた。

私が絶望した名前ではあるが、
その名前を伝えたシゲルが大喜びしたので、
それだけが、せめてもの救いだった。

その命名の現場を一緒に見ていたエストは、
私をさらに、
絶望のどん底に落とす発言をしてしまう。

「やはり、おじい様の名付けは最高ですね。

 カズシゲ。
 あなたも森の隠れ里の末裔として、
 いつかご先祖様の祭司長様を訪ねてくれると、
 おじいちゃんはうれしいですよ。

 そしてシゲル。
 私はこれから直系の跡取り息子には、代々、
 おじい様に名前を与えて欲しいと思うのですが、
 いかがです?」

「それは名案ですね!!」

後になって考えたとき、
私はこの時、すぐにでも固辞すべきだった。
私には無理だと。

しかし、この絶望感が代々続くのかと、
思ってしまった瞬間に、
私はまたしても硬直してしまい、
そのチャンスを永遠に逃してしまった。

こうして、私は代を重ねるごとに、
自分に絶望する事を繰り返しながら、
和風の名前を付けていく事に、
なったのであった。