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先祖返りの町作り

第91話 大衆浴場の建設

合同お祝い会が終わって、
しばらく経過した頃。

私は領民達に、
何か形のあるものをお返ししたいと思い、
あるものの建設許可を、
エストに願い出た。

「大衆浴場の建設許可ですか?」

「ええ。それがあれば、
 領民の皆が、少し清潔になるので、
 病気の発生率も、少しはおさえられるかと、
 考えています」

エストは私を見つめ、少し問いただす。

「でも、おじい様が作るのであれば、
 他の都市にあるような、
 大衆浴場は作らないのでしょう?」

私は頷いて、その構造を語り始める。

「ええ。新しい風呂釜を作ろうかと」

「それは、どのようなものですか?」

「これを使えば、
 現在のお風呂用の給湯の魔道具のように、
 内部にお湯を確保する必要がなくなるので、
 バスタブが、
 かなり広くとれるようになります」

エストは、少しあきれ顔になりながら、
感想を語る。

「おじい様は本当に、次から次へと、
 新しい魔道具を作られるのですね」

「この風呂釜自体は、
 魔道具ではないのですよ」

そして私は、
風呂釜の簡単な原理を説明した。

まず、U字型のパイプを用意し、
これを横方向にして、
コの字の形に、バスタブに取りつける。

そして、給水の魔道具で、
バスタブに水を張り、
パイプの下側から、火の魔道具で温める。

温められた水は、少し軽くなるため、
パイプの上部に移動し、上側の出口から、
バスタブに戻る。

そうすると、
下側のパイプの水の圧力が下がるため、
バスタブからパイプの下側の入り口に、
冷たい水が入ってくる。

こうやって、水が循環して行き、
バスタブ全体の水が温められる。

これは、対流と呼ばれる現象である。

この説明を受けたエストは、
私にある質問をする。

「タイリュウですか。
 前から思っていましたが、
 おじい様のその知識は、
 いったい、
 どこで身に着けたものなのです?」

私は、少し冷や汗を流しながら、
必死に頭を回転させ、言い訳を考える。

「それは、本からの知識ですね。
 私は、貴族しか買えないような本も含めて、
 いろいろと買い漁っているのですよ」

私のとっさのごまかしが、うまくいったのか、
エストも納得したようだ。

「おじい様は、読書が趣味ですものね。
 そのような難しい内容の本まで、
 読破されているとは、
 知りませんでした」

エストは一つ頷いてから、
建設の許可を出す。

「分かりました。
 領主一族からの、
 領民への感謝の気持ちという事にして、
 建設を許可します。

 ただ、一つだけ条件があります」

そう言うと、クスリと笑ってから、
エストは語る。

「試作品で良いので、
 我が家のお風呂にも、
 それを設置してください」

私もクスリと笑ってから、それに応じる。

「もちろんです。
 私も広いお風呂に、入りたいですから」

それから10か月ほど過ぎた、冬のある日。

町の北の小川のほとりに建設していた、
大衆浴場が完成した。

また、約束通り、我が家の風呂にも、
この新型の風呂釜を設置していた。

この大衆浴場は、
税金を納めてくれる領民達への、
領主一族からの感謝の印だと説明され、
運営にも補助金が付けられ、
他の都市にある大衆浴場よりも、
安い料金で入浴が可能になった。

この新しい大衆浴場に入った、領民達は、
建物の大きさの割には広いバスタブを見て、
とても喜んでいた。

また、この風呂釜は、
人力で水を運んで、
下から薪の火で温めても使えるため、
風呂専門の工房も新たに作られた。

そのため、個人用のバスタブや風呂釜も、
ガインの町のものが、
最高級のブランド扱いになり、
税収も増える事になる。

これらの事から、
領民の間で入浴がブームとなり、
最初に作られた大衆浴場は、
観光名所としても、
知られるようになっていった。