先祖返りの町作り
第89話 100歳の誕生日
それから2年が過ぎた、元日。
今日は領主業務もお休みのガイン一家は、
メイの家族も含めて全員、
食堂に集合して、食事を楽しんでいた。
そんな時、私は思っていた事が、
ふと口をついて出た。
「とうとう、大台に乗りましたか」
それを、
隣で食事をしていたエストが聞き付け、
私に質問をする。
「何か、領地運営で悪い数字でも、
出たのですか?」
「いえ。
私の年齢がついに大台に乗った、
という話です」
その会話を聞いたネリアも、
私に質問をする。
「曾祖父様、それは、もしや……」
「ええ。とうとう、
100歳になってしまいました」
それを聞き付けたシゲルも、会話に加わる。
「え? ひいおじい様は、
元日が誕生日なのですか?」
「正確な誕生日は、分からないのです。
里には暦がありませんので」
「では、なぜ元日なのです?」
「私の里では、誕生した季節が来たら、
一つ年を取るという、風習なのです。
私は春生まれで、
王国の暦では、1月から春なので、
便宜上、
元日を誕生日にしているのです」
それを聞いたエストが、
とてもうれしそうに、
誕生日会の開催を決めてしまう。
「それは、素晴らしい。
ぜひとも、おじい様の誕生日会を、
開かないといけませんね」
「この年で、
いまさら誕生日会もないでしょう?」
ここで、メイも誕生日会の開催を押す。
「おじい様の里では、
珍しくないかもしれませんが、
王国で100歳になれる人は、
まずいませんから、
ここは、盛大にお祝いしましょう」
エストもそれに乗っかる。
「ええ。ええ。
まずは、おじい様の工房の弟子達と、
高等学校の先生達は、
お祝いにかかせませんね。
ぜひとも、彼らを招待して、
盛大にお祝いしましょう」
「メイも言っていましたが、
私の里では、100歳ぐらいであれば、
まだ中年ですよ?」
私は開催を止めようとしたが、
シゲルも乗っかる。
「いえいえ。
ひいおじい様は、
この領地と民の宝ですから、
もっと盛大にお祝いしても、
良いぐらいだと、私は思います」
ここで、ネリアが、
さらにお祝いの規模を、拡大させる発言をする。
「その通りですわ。
それと、わたくしからも、
皆様にご報告したい事があります」
そう言って、ネリアはエストを見た後、
ある人物を紹介し始める。
「皆様にぜひとも紹介したい、
わたくしの恋人がおります」
私の家族は全員、少し驚いた顔をする。
ネリアはとてもモテたそうだが、
今まで浮いた話一つなかったので、
そろそろ、心配していたためだ。
「では、少しお待ちください。
お呼びしてまいります」
そう言って、連れてきた男性は、
全員良く知っている人だった。
「おそらく、
皆様良くご存じだと思いますので、
彼からの自己紹介は、
省かせていただきます。
お父様、わたくしは、
こちらのレオン様と結婚したいと、
思っております。
婚約の許可をいただきたく存じます」
このレオンさんは、最近になって、
高級官僚として出世した人物である。
帳簿の検算作業という、
とても地味な仕事をしていたが、
毎日真面目に黙々と仕事をしている姿を、
エストが見かけてほめたため、
彼の仕事ぶりが再評価された結果、
めきめきと頭角を現した人物だ。
そのため、
同じ高級官僚である、
ゴランさんの同僚となり、
メイの家族を含めて、全員と面識がある。
彼はその仕事ぶりと同じく、
性格もとても真面目で、
ネリア同様、
今まで浮いた話の一つとしてない、
堅物としても、知られていた。
そんな二人が、密かにお付き合いしていたと、
聞かされたのである。
私も含めて、皆驚いていた。
エストはすぐ笑顔になり、
ネリアに返答する。
「そうでしたか。
とてもネリアとお似合いの、
誠実で真面目な彼であれば、
あなたを幸せにしてくれるでしょう」
「では、お父様」
「ええ。
もちろん、許可します。
婚約おめでとう」
ここで初めて、レオンさんが口を開く。
「ありがとうございます。領主様。
必ず、ネリア様を幸せにして見せると、
ここに誓います」
ネリアもとてもうれしそうにしているが、
彼の発言に、少し苦情を入れる。
「レオン様。
私達は、後に夫婦となるのです。
ぜひ、ネリアと呼び捨てにしてくださいませ」
「しかし、ネリア様」
「ネリア様ではありません。ネリアです。
わたくしの事を、
愛していただけるのでしたら、
お願いします」
ネリアの少し意地悪の入った注文に、
生真面目な彼は、すこし戸惑った後に、
こう言った。
「分かりました。ネリア。
でも、それであれば、
あなたも私の事は、呼び捨てにしてください」
「嫌でございます」
「「「え?」」」
ネリアの意外な発言に、
思わず家族でハモってしまう。
「レオン様の事は、結婚した後に、
『あなた』とお呼びしたいのです。
ですので、それまでは、
我慢してくださいませ」
家族もその発言を聞いて、胸をなでおろす。
いつも丁寧な口調のネリアであれば、
自分の夫を、
ずっと様付けで呼びかねないと、
心配したからだ。
そうやって、私の誕生日と、
ネリアの婚約との合同お祝い会の開催が、
決定されてしまう。
レオンさんの同僚である、
官僚達もお祝いに参加する事になり、
その日は領主業務を、
お休みにする事になった。
それから嬉々として、
合同お祝い会の開催準備を進めた、
エストであったが、
私にとっては、
少し困った問題も発生していた。
ぜひとも自分もお祝いをしたいという、
領民からの陳情が、上がり続けたのだ。
そのためエストは、
その日を領地全体の祝日にしてしまい、
領主の予算でタダ酒をふるまう事も、
決定してしまう。
(何だか、私のつぶやきから、
大事になってしまいました)
そんな感想を抱きながら、
合同お祝い会の日を待つ事になった。