先祖返りの町作り
第88話 ひ孫達と里帰り
それから数日旅を続け、
今は私の里に到着していた。
「「これが、森の隠れ里……」」
ネリアとシゲルが、
かつてのエストと同じ発言を、
ハモりながら口に出している。
近くで遊んでいた子供が、私を見つけ、
近寄ってくる。
「祭司様! おかえりなさいませ。
今日のお土産は、何ですか?」
早速お土産をねだるその子を見て、
私は微笑みながら、
背嚢から袋を取り出して渡す。
「ただいま。アンジェ。
今日のお土産は、飴玉です。
また、皆で分けて食べてくださいね」
笑顔になったアンジェは、
「ありがとうございます! 祭司様!
では、皆に知らせてきますね!」
そう言って、走り出した。
そして、しばらく歩いて、
祭司長の小屋へ到着する。
「祭司長様。祭司です。
ただいまもどりました」
「おう。おかえり。
ところで、そちらの二人は、わしの玄孫かの?」
私は、3度目のデジャブなシーンを想像して、
身構えていたが、
さすがに祭司長も学習したようだ。
「ええ、そうです。
ネリア、シゲル。
ひいひいおばあ様に、挨拶をお願いします」
「初めまして、高祖母様。
わたくしが、高祖母様の玄孫の、
ネリアと申します。
以後、お見知りおきください」
「初めまして、ひいひいおばあ様。
私が祭司長様の玄孫の、シゲルです。
よろしくお願いします」
祭司長は、とてもうれしそうに頷いて、
自己紹介する。
「そうか、そうか。
よくぞ、訪ねて参ってくれたの。
わしが、
おぬしらのひいひいおばあちゃんじゃ。
よろしくな」
ここで、私はエストからの伝言を伝える。
「祭司長様。エストからの伝言です。
これから、エストの子孫には、代々、
祭司長様の魔石のペンダントを、
渡したいそうです。
そして、
私がこの里の魅力を子供の頃から、
教え込みますので、成人したら、
その子孫達がまた、
訪ねて来てくれるかもしれません」
「そうか! それは良い考えじゃな!
では、早速、魔石を作ろうぞ」
私はクスクスと笑いながら、
祭司長を止める。
「祭司長様。
まだ、シゲルは結婚もしていませんよ?
子供が生まれたら、
私が連絡しますので、
その時に、張り切って作ってください」
祭司長は、少し顔を赤くしながら、
先走った事を恥じる。
「そ、それもそうじゃな。
ちと、うれし過ぎて、先走ってしもうたわ」
そんな私達のやりとりを見ていた、
ネリアとシゲルの姉弟は、
クスクスと笑っている。
シゲルが感想を述べる。
「ひいおじい様と、ひいひいおばあ様は、
本当に仲が良いのですね」
ネリアも感想を述べる。
「本当にそうですわね。
なんだか、息もぴったりで、
長年連れ添った、夫婦のようにも見えます」
それを聞いた祭司長は、
顔を真っ赤にして、否定しようとする。
「ふ、夫婦とな! そのような事はないぞ?
であろう? 祭司よ」
なんだか、
その仕草がとてもかわいらしく見えて、
私はつい、意地悪として、
幼少時代の秘密を暴露してしまう。
「実は私は、小さい頃に、
将来は祭司長様を、
お嫁さんにしようと思った事が、
あるのですよ?」
シゲルが興味津々な様子で、
詳細を聞こうとする。
「それは、初めて聞きました。
では、それがひいおじい様の、
初恋ですか?」
「いえ。
小さい子供ゆえの、若気のいたりだと、
考えています。
ですので、初恋としては、
カウントしていません。
私の初恋は、あなたのおばあ様である、
ルースでしたね」
すると、今度はネリアが興味津々な様子で、
詳細を聞こうとする。
「では、おじい様との三角関係だったのですね。
それは、ぜひとも、
わたくしに教えてはいただけませんか?」
「エストが知っているはずなので、
ガインの町に帰ってから、
その話はしましょう。
ずっと立ち話も何ですから、
そろそろ中に入りませんか?」
祭司長も同意する。
「そうじゃな。
そろそろ、腹も減ったろう。
ネリア、一緒に夕食を作らぬか?」
「ええ、もちろんです。
高祖母様と一緒に料理ができるなんて、
わたくしは、幸せものですわ」
「そうか。
では、どのような料理が所望じゃ?」
ここで、シゲルが食いつき気味に返答する。
「では、ぜひとも、
ひいひいおばあ様のはんばーぐが、
食べてみたいです!」
ネリアも同意する。
「そうですね。
お父様が、あれは珍しい味で、
とても美味しかったと、自慢してましたからね」
そんな楽しい会話と食事を済ませ、
その後、3日間の里帰りの予定を済ませた。
これは先の話になる。
エストのお願い通り、直系の子孫達には、
祭司長のペンダントが送られ、
これが、ガイン家の一員の証として、
代々大切にされるようになっていった。
そして、エストの狙い通りに、
直系の子孫達は、
一度はご先祖様である、
祭司長を訪ねるのが、
慣例となっていった。
後に分家となった家では、
ガイン家の分家の証として、
初代のペンダントが家宝として、
代々大切に受け継がれていくように、
なるのである。