Novels

先祖返りの町作り

第58話 恥ずかしい話

そうやって、挨拶をしながら移動していると、
祭司長の掘立小屋に到着する。

「祭司長様、祭司です。
 ただいまもどりました」

呼びかけると、中から祭司長が出てくる。

「おう、祭司か。
 おかえり。

 ところで、わしのひ孫が来るやもしれん、
 という話は、
 いったい、どうなった……の……じゃ?」

祭司長は、小屋から出てくると、
エストを見かけて、最後が疑問形になりながら、
挨拶を返してくれる。

私はクスクスと笑いながら、エストを紹介する。

「この子が私の孫で、
 祭司長様のひ孫のエストです」

「はじめまして、ひいおばあ様。
 私が祭司長様のひ孫のエストです。
 よろしくお願いします」

「祭司長様のひ孫」の部分で、
少し照れたような様子を見せる祭司長は、
そのまま夕食に誘う。

「遠路はるばる、ご苦労じゃったな。
 わしが、おぬしのひいおばあちゃんじゃ。

 よろしくな。

 そろそろ、腹が減ったろう。
 わしが料理をふるまうゆえ、
 中に入って、一緒に夕食を食べようぞ」

祭司長は、すごくうれしそうだ。

私には分かる。
先祖返りは結婚しないし、子供もほぼ望めない。

だから、自分に子供やひ孫ができた事が、
とてもうれしいはずだ。

祭司長の小屋に入ったエストは、
周りを見渡して、雑談を始める。

前文明的な小屋にも、動じた様子はない。

「話してくださった通り、
 おじい様の作った魔道具を、
 ひいおばあ様は使っているのですね」

そう言って、小屋に飾られた、
私がかつてプレゼントした火種や、
みきさーや光の魔道具、
そして、がすこんろを見る。

祭司長は、鼻歌でも歌いだしそうなぐらい、
上機嫌で料理をしている。

ちなみに、祭司長が今作っている料理は、
以前の里帰りの時に、私と二人で共同開発した、
はんばーぐ、
森の隠れ里スペシャルバージョンである。

みきさーの魔道具を持って帰った時、
この里で入手できる食材を使って、
私と祭司長の二人で仲良く、
はんばーぐのレシピを研究、改良したものだ。

あれは、なかなか楽しかった、良い思い出だ。

はんばーぐは、我が家の定番料理ではあるが、
この味なら、エストも喜んでくれるはずだ。

「ひいおばあ様。
 おじい様の子供の頃の話を、
 してくださいませんか?」

「別に構わぬが、どのような話を所望じゃ?」

祭司長は料理の手を止めずに、
背中越しに会話する。

「そうですね。

 あの、おじい様が魔石に魔力を込めようとして、
 連日気絶した話を、聞かせてもらえませんか?

 ひいおばあ様から見た、
 おじい様の様子が知りたいです」

「あれか。
 このバカは、わしが何度説教しても、
 気絶するまで魔力を使うのを、
 止めようとはせなんだ。

 このままでは、
 いつ心臓が止まってしもうても、
 おかしゅうないと、
 毎日ハラハラしていたものじゃ。

 あのように心配したのは、
 わしの長い人生でも、あれだけじゃな」

私の子供時代の、
恥ずかしいエピソードの暴露話に、
すごく照れくさくなる。

「祭司長様に、そんなに心配されているとは、
 気付きませんでした。

 それなら、そう言って欲しかったです。
 何も、あんなに怖い顔と声で、叱らなくても」

私が照れ隠しにそう言うと、
祭司長も照れた様子で、小声でつぶやいた。

「そんな、こっぱずかしい話を、
 面と向かって、言える訳がなかろう」

ばっちりとその声を聴いた、私とエストは、
顔を見合わせて笑う。

そんな楽しい会話を続け、
3人で夕食を取った後、
私とエストは私の小屋に入り、一緒に寝た。

いつまでも、
大切に保存されている私の小屋を見て、
里の皆の変わらぬ愛情を感じ取り、
感謝の気持ちが溢れてくる。