先祖返りの町作り
第56話 面白い敬語
ガイン村を出発した私とエストは、
その後、ガルムの都市で、
行商人のアレスさんの一行と合流し、
今はシユス村に向けた、街道を移動中だ。
馬車を操るアレスさんが、語りかける。
「ヒデオ様、エスト様。
本当に馬車に乗らなくても、
よろしいのですか?」
「もちろんです。
私達が馬車に乗ってしまうと、
アレスさんが、行商できなくなりますので」
「気を使っていただくのは、恐縮なんですが、
お貴族様が徒歩で、私が馬車というのが、
どうにも、落ち着かないんですよ」
私は苦笑しながら答える。
「そこは、慣れてもらうしかないですね。
私は元々、この先の里の出身ですし、
孫のエストも、かなり鍛えていますから、
徒歩でも全く問題ありません。
ですよね? エスト」
「はい。おじい様と一緒に、
あこがれの森の隠れ里に行けるんです。
徒歩の旅ぐらいで、へばったりしません」
護衛の傭兵さんの一人も、
おそるおそる雑談に加わる。
「最初は、この仕事を受けた時は、
実は、うんざりしてたんスよ。
お貴族様と旅をするなんてナーと」
「我が家は貴族とは言っても、成り上がりです。
ウチの領地では、平民の領民と一緒に、
学校に通ったりして生活しているので、
私達は、一般的な貴族とは、
少し違うでしょうね」
「ガイン村のお貴族様の話は、
噂には聞いてマシたが、
噂通りの気さくな人で、助かるデス」
傭兵さんのなれない敬語が、
かなり面白い事になっている。
「私達に無理に敬語を使う必要はないですよ?
ね? エスト」
「はい。おじい様。
私も全然気にしませんので、
普通に話してください」
「そりゃ助かる。実は舌を噛みそうだったんだよ」
行商人の一行が、笑いにつつまれる。
それから、3日ほど旅を続け、
私達は中継地点であるセイス村で、
旅の疲れを癒している。
今は夕食も終わり、のんびりしている。
「しかし、『耳長の悪魔』の噂は聞いてはいたが、
本当に、スゲェ魔導士様なんだな」
「おじい様を、
あまりそのあだ名で呼ばないで欲しいです。
それと、おじい様がすごいのは、当たり前です。
私の自慢のおじい様なんですから」
「そりゃ、すまん。
しかし、どんなに離れた魔物でも、
目に入ったら魔法で瞬殺してしまうし、
後ろから襲撃されても、孫が対応するし、
この孫もまた強い。
こんなに、楽な護衛依頼はねぇわ」
別の傭兵さんも会話に加わる。
「ぼっちゃん達なら、ウチの傭兵団に入っても、
すぐに出世できますぜ。
正直、お貴族様の実力を、ナメてましたわ」
この3日で、すっかり打ち解けた我々は、
雑談を楽しむ。
アレスさんも雑談に加わる。
「ヒデオ様達といつも一緒なら、
私も楽に、行商ができるんですがね」
「私は、一年に一回ぐらいのペースで、
里帰りしています。
ですので、ガイン村まで連絡してもらえれば、
時期と時間の都合が合えば、ご一緒しますよ?」
「それは助かります。
では、次の機会には連絡しますね」