先祖返りの町作り
第35話 イジェクト
次に行ったのは、『イジェクト』の魔法の開発。
空を飛ぶための反作用の魔法を応用した、
緊急時に後ろに吹っ飛んで距離を取るもの。
実は『フライ』の魔法開発のための実験場として、
森のちょっと奥まった所に、
例のネタ魔法、
『ウォーターカッター』で木を伐採し、
切り倒した丸太と根っこは、
土魔法を駆使して埋め、
ちょっとした空き地を作っていた。
そして実験。
後ろに吹っ飛ぶだけなら、簡単にできた。
ただ、減速する方法を全く考えていなかった。
実験場を突っ切って、背中から木に激突した。
かなり痛い思いをしたが、
めげずに実験を繰り返した。
最初にやったのは、
空ループを使って、ディレイタイムを調整し、
時間差を付けて、後ろにも風魔法を吹き付け、
減速する方法。
何度も失敗し、時には顔面から、
地面にダイブしながら頑張った。
やはり、姿勢制御の問題でとん挫した。
ならば、
(何か、クッションになるものを、
作れば良いのでは、ないですかね?)
と、開発したのが『エアクッション』。
空気密度を上げて空気の壁を作り、
衝撃を殺す。
思った以上の密度と広さが必要だったが、
風盾の魔法を応用する事で、
なんとかなった。
傷だらけになりながらも開発成功。
『イジェクト』と『エアクッション』を統合し、
『イジェクト改』として、
イベントハンドラに登録。
納得した私は、仕事に戻ったが、
しばらくして、
この新魔法の致命的な欠点に気が付いた。
このイジェクト改は、
例の反作用の魔法を使っているため、
吹っ飛ぶ時には、前方に強い風が吹く。
(後ろに逃げるくらいですから、
前方には敵がいるはずですので、
けん制になって、ちょうど良いですよね?)
と考えていたが、
(前に味方がいたら、どうするんですか)
と気が付いた。
私は遠距離ファイターなので、
前方方向には壁役がいる可能性がある。
その時、このイジェクト改をぶっ放したら、
味方を敵の方向にぶっ飛ばす。
これはまずいと、
通常の反作用のない風魔法に変更し、
通常とは反対方向の、
自分に向かって吹き付けるようにした。
しばらくたって、開発が終了し、
『イジェクト改Ⅱ』として登録しなおした。
休日になるごとに森に出かけ、
翌日出勤した時には、
青あざを作っている私を見た同僚達は、
「何をしたらそうなるんだ?」
と、ものすごい不審な目で見ていた。
「魔法の改良をしています」
と説明していたので、止められはしなかったが、
休日にまで出かけて、
商品の魔法式を改良していると、
勘違いしていたので、
かなり心苦しかった。
(我ながら、すごいアホな事をしていますね)
と、つくづく思った。
ちなみに、私が里に持って帰った、
がすこんろの魔道具は、
祭司長が愛用してくれている。
がすこんろの魔道具は、
魔道具にしては、
かなりの小型軽量タイプではあるが、
それでも、
それを人力で10日も運ぶのは大変なので、
アレンさんに教えてもらっていた自宅を訪ね、
お金を払って、
馬車と荷車で里まで輸送してもらった。
ちなみに、アレンさんはとっくに引退していて、
息子さんのアルスさんが後を継いでいた。
魔力源の魔石は、
交換不要のメンテナンスフリーを目指して、
ご禁制の私の魔石をセットしている。
里に王国のお貴族様なんか絶対に来ないし、
ありえないとは思うが、
何らかの方法で伝わったとしても、
祭司長が作れるものだから、
里で使う分には何の問題もない。
里の皆は、珍しそうにがすこんろを見ていた。
一年後の里帰りで、祭司長は普通に、
がすこんろを使いこなしていたが、
里の皆は誰も欲しがらなかった。
ただ、便利そうだなとは、
思ってくれたらしい。
超保守的なウチの里からすれば、
これだけでもかなり変化したと言える。
文明の利器を使いこなす、祭司長を見た時、
(そのうち、この小屋だけ、
家電製品で溢れるのでしょうか?)
と思った。