先祖返りの町作り
第34話 空は飛べません
少し時間のできた私は、
また魔法開発を進めている。
最初に行ったのは、
幼少期に開発を断念した『フライ』の魔法である。
里では魔法の改良も許されなかったので、
人目を気にして断念したが、
ここでは、
私のオリジナル魔法である事さえ伏せれば、
適当な魔法の改良実験としてごまかせる。
そして森に通い、
目指せ夢のアイ・キャン・フライ。
腹ばいに地面に横たわり、
体をまさぐる不審者再誕。
かなり頑張って試行錯誤を繰り返したが、
結論から言えば大失敗だった。
少し浮く程度ならできなくはない。
ただ、姿勢制御が難し過ぎる。
空中でふらふらするならましな方で、
少しでも気を抜くと、
簡単に明後日の方向に吹っ飛ぶ。
最悪、きりもみ回転しながら吹っ飛んだ事も。
(これは、体に直接空気を当てている以上、
どうやっても、無理でしょうね)
そう結論付けた。
生身がだめなら、
何か他のものに風を受けさせたらとも考えた。
真っ先に浮かんだのは、
ハンググライダーだったが、
さすがに流体力学までは知らない。
一人で開発するのは無理だとあきらめた。
一瞬、魔道具で代用とも考えた。
VTOL機のような、ジェット機が作れたら理想だが、
やはり流体力学が分からない上に、
電卓を作ろうとして、
うっかり巨大国家プロジェクトを、
提案しそうになった私だ。
これがどれだけ巨額の費用が必要か、
すぐに理解した。
熱気球や飛行船のような、
安定して空中に留まれるものを開発して、
それの動力として、
魔法を使うしかないと結論付けた。
最初に目指した、
魔法で空を飛ぶという思想からは、
だいぶズレていたが、
かなり大真面目に検討した。
飛行船については、何らかの軽い気体を、
大量に用意しなければならない。
一番良いのはヘリウムだが、
地球でも大量に抽出できたのは、
かなり後の時代だったはずだ。
飛行船の初期から使われていた、
水素の利用も考えた。
(水があれば、
電気分解で原理的には作れるはずです。
電気は、電気モーターを回せば作れますね。
その回転力には、
例のモーターの魔道具を使えば良いはずです)
電気モーターの構造を、まずは思い出した。
(永久磁石を回りに配置して、
その内側に二つのコイルを作るはずです。
そして、軸の部分に接触部を用意し、
半回転したときに、
プラスとマイナスが入れ替わるようにすれば、
良いはずです)
ここまで考えた時、この方法の致命的な問題に、
すぐに気付いた。
(飛行船に必要なほどの、
大量の水素を作るためには、
恐ろしく大量の電力が必要になります。
これは、とてもじゃないが、無理でしょうね)
では、熱気球は?
構造と原理自体は、非常に単純だ。
気球内部の空気を、
加熱する時の火が燃え移らないように、
研究開発する必要はあるが、
時間さえかければ、
できなくもないような気がする。
しかし、空飛ぶ乗り物の開発で、
事故は多発するはずだ。
少なくとも、
パラシュートぐらいの安全装置を作らなければ、
いくらなんでも、危険過ぎて作れない。
長々と検討してどれも没。
空飛ぶ夢はとん挫した。