先祖返りの町作り
第25話 秘伝の粉
私は、ここまで育てていただいたお礼として、
温めていたアイデアを述べる。
「親方、実は塗料の原料に、
少し思い当たるものがあるんです。
これに注目してください」
私は周辺の森で取れた、
里のものと同じ程度の大きさの、
魔石を机の上に置く。
そして、軽く魔力を流す。
輝きを増す魔石を見た親方は、
最初の方は興味深く見ていたが、
輝きを増すほどに、顔をしかめる。
「おい。止めろ。上位アルクの魔石は、
作るなと言っているだろう?」
「そう言わずに、見ていてください。
これから作るのは、魔石ではありません」
怪訝な表情を見せる親方の前で、
魔石の魔力保持限界を超え、
さらさらと金色の粉ができる。
「これは何だ?」
「実は、魔石には、
保持できる魔力に限りがあります。
こうやって魔力を限界を超えて注ぎ込むと、
このように粉になります。
これなら、
いちいち砕いて使用しなくても良いので、
塗料が作りやすくなりませんか?」
親方はとても驚いた顔をする。
それはそうだろう。
「ヒム族の魔力でこれを作るのは、
おそらく不可能だと思います。
里でも、先祖返りにしかできない技なんです」
実は、これを使って塗料を作って欲しいのには、
理由がある。
質の良い大型の魔石を使っても、
誤差程度にしか品質が上がらず、
里のものや私の魔石を使えば、
かなりの品質のものになるのは、
おそらくは、
単位体積当たりの魔力量の違いだろう。
里が産出する魔石は、小型で魔力が多いので、
魔力密度が非常に高い。
しかし、魔力密度の割には効率が悪いのは、
魔石の抵抗力だろうと、仮説を立てた。
魔石に魔力を込めるほど、
魔石から受ける抵抗力が上がる。
おそらくは、これが電気抵抗のように作用し、
魔力の割には、
効率の悪い塗料しかできないのだろうと、
予想する。
そして、崩壊した時にできる金色の粉だ。
元々私の作る魔石は、
限界ギリギリまで魔力を込めているため、
魔力密度としては、私の魔石と粉の間では、
それほど差はないはず。
しかし、崩壊する直前には、
魔石の抵抗力が激減するため、
超伝導のように、
抵抗力が限りなくゼロになると、考えている。
(この仮説が正しければ、
ものすごく小型軽量の魔道具も、
夢ではなくなりますよね?)
心の中で考え、親方の研究が進むのを、
心待ちにする。
それから数日後、
親方はとても大きな声で私を呼んだ。
「おい、ヒデオ! ちょっとこっちこい!」
「何ですか? そんなに大声出して」
「これを見ろ」
そこには、作動を続ける計測の魔道具があった。
「もう何日も止まらない!!
信じられんほどの魔力伝導率だ!!
これはすごい発見だ!
魔道具界に革命がおこる!
いいや、それだけじゃない!
これを使えば、古代魔法文明の魔道具も、
作動させられるかもしれん!!」
興奮して、まくしたてる親方を宥める。
「落ち着いてください。親方。
うれしいのは分かりますけど、
これ、材料聞かれたら、
説明できないですよね?」
親方の顔から笑顔が消え、
ストンと能面のようになる。
「そうだった……。
上位アルクの魔石からできるなんて、
説明できる訳がない……。
そんなものを発表してしまったら、
命がいくつあっても……」
頭を抱える親方に、解決策を教える。
「よく考えてください。親方。
この粉そのものは、
魔石からできているようには、見えません。
ヒム族には、未知の素材なんですから、
親方の秘伝として使えばいいんです。
黙っていれば、誰にもバレませんよ?」
親方の顔に血色が戻る。
「そうか……。そうだよな。
黙って使えば、いいだけじゃないか。
これが発表できれば、歴史に名が残るが、
命にはかえられんしな」
「ええ。そうですよ。
私も頑張って作りますが、
もし足りなくなるようでしたら、
私が里に帰って、
育ての親に頼んで作ってもらいます。
彼女も同じものが作れますから。
ただ、里の皆は、
金儲けに興味がありませんから、
量産できるほどの数は、期待できませんが……」
「お前の故郷に行けば、手に入るのか。
それはいい。
それなら、もしバレそうになったら、
森アルク族の秘伝の粉という事にしよう。
上位アルクの魔石から作っている事さえ、
バレなければ、どうとでもやりようはある」
「それは良いですね。そうしましょう」
「ところで、これはどのくらい作れるんだ?」
「一日に20くらいなら、余裕で作れますよ?」
親方は絶句したような表情でつぶやく。
「上位アルクって、
伝説以上にスゲェもんなんだな……」