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SOLID STATE ANGEL ver.1.1

第68話 敗北

「旧人類の希望となっているあなたには、ここで消えてもらいます」

 新天使はそう言うや否や、こちらの返答を待たずに突っ込んできた。

「速い!」

 俺はかろうじてその一撃を盾で防御できた。しかし、不十分な体勢で受けてしまったため、ただの一撃で盾をはじかれ、正面ががら空きになってしまう。

られる!!」

 新天使の次の一手に俺の防御が間に合わない。そう判断した瞬間、俺の時間が引き延ばされた。

 さきに浮かんだのはセシィの顔だった。

 ああ。セシィは悲しむより先に、新天使に怒りをぶつけるんだろうな。できれば、俺のことなんか無視して、一目散いちもくさんに逃げてほしい。

 そして、次に浮かんだのはセシルの顔だった。

 俺が見向きもしなくなると想像しただけで、自壊じかいしそうになった彼女のことだ。どんな反応をするのか容易よういに想像がつく。しかし、セシルの頭の中の情報は人類にとって至宝しほうだ。できれば、自重じちょうしてほしい。

 俺はあきらめと共に、やけにゆっくりと迫ってくる新天使の剣をながめていた。その時、何かが割り込んできた。

「セシル!!」

 俺は一瞬で我に返り、割り込んできた機体の操縦士の名前を叫ぶ。

 同時に、セシルの機体の操縦席のあたりがはじけ飛び、俺の背筋せすじが凍り付く。

「セシル!! 返事をしてくれ!!」

 俺は近距離レーザー通信を接続する手順も忘れて、外部スピーカーで絶叫していた。

 永遠とも思える一瞬の時間の後に、セシルからの近距離レーザー通信がつながる。

「私は無事ですので、外部スピーカーで名前を叫ぶのはやめてください」

 その指摘に、俺は外部スピーカーを手早くオフにしてから、安どのため息を吐く。しかし、ノイズ交じりで表示されているセシルの姿を確認し、俺は再び凍り付く。

 左腕の部分が完全に吹き飛んでおり、内部構造が一部露出している。

「セシル!! 早く俺の後ろに!!」

 俺が前に出てかばおうとすると、セシルの機体が動き、俺の邪魔をする。

「だめです。それでは、ジェフが死んでしまいます」

 あくまで俺をかばおうとするセシル。

 そうだ、目の前には新天使がいる。このままではセシルがられてしまう。

 俺はあせりから正常な判断ができなくなり、なんとかセシルを制して前にでようともがく。その時、不思議と攻撃してこなかった新天使が口を開く。

「おや? あなたは旧人類に興味を持ちすぎた結果、あろうことか、旧人類相手に不覚をとった欠陥品ではありませんか」

 セシルの機体は操縦席のあたりの装甲が吹き飛んでいるため、その姿が露出していた。それを確認して、新天使が続けて語り掛ける。

「そうでしたか……。最近の旧人類の急激な技術革新は、あなたが裏切っていた結果でしたか。さすがは不良品です」

 そして新天使は少し首をかしげ、考えるそぶりをしてから続きを語る。

「これは、私が判断するには重大すぎる案件ですね。お父様に相談しましょう」

 俺には見向きもせずに、新天使はそのまま新帝国の方向へと飛び去って行ってくれた。

見逃みのがしてくれた……のか?」

 思わず安どのため息を再び漏らし、改めてセシルを見る。

「セシル。大丈夫なのか?」

 そうすると、セシルは自分の体を見つめ、意外なことを語り始めた。

「ええ、大丈夫です。ですが、ジェフ。恥ずかしいので、あまりジロジロと見ないで欲しいのですが?」

 それで改めて確認したが、セシルの服もひどい状態だ。

「す、すまん!」

 俺はあわてて近距離レーザー通信の表示ウィンドウを閉じ、音声通信のみに切り替えた。

 こうして、俺たちは新天使に対し、なすすべもなく完全に敗北した。

 しかし、俺たちの命は残っている。で、あれば、いくらでもやりようはある。

 いつまでも敗北しっぱなしではいられない。それでは、いつかられてしまう。新たな対策を考えなくてはならないだろう。

 俺たちがこの戦争を生き残るために。