SOLID STATE ANGEL
第73話 来世にて
部屋に降りたセシルは、人間業ではないと言い切れるほどの速度でキーボードを操り、何かのログを高速で表示していた。
やがて確認が終わったようで、周囲を警戒していた俺とセシィに振り向き、説明を始めた。
「やはり、先ほどの監視カメラのハッキングで、何かが起こっていることにお父様が気づいたようです」
俺はその発言に、冷や水を浴びせられたような気分になり、セシルに確認をとる。
「それは、この作戦が失敗したということか?」
セシルはゆっくりと首を振り、否定する。
「いえ。まだ、なにかがおかしいと思っているだけのようです。ですが、当初の予定通りに時間差で爆破するプログラムを仕込んでしまうと、ほぼ間違いなく察知され、解除されてしまうでしょう」
「それはつまり、どういうことだ?」
セシルは少しだけ微笑むと、俺にとっては絶対に受け入れられない提案を始めた。
「察知されないようにするために、私の頭の中でプログラムを組み上げます。そして、それをこちらの端末に送り込むと同時に起動し、爆破します。ですから、私がここに残りますので、ジェフとセシィは直ちに退去してください」
「なっ……」
俺は絶句していた。
それはつまり、セシルがここに残って、自分もろともマクシモを爆破することに他ならないのではないか?
俺が返答に詰まっている間に、セシルとセシィの間で話が進んでいく。
「セシィ。今世でのジェフはあなたに譲ります。ですからどうか、ジェフを幸せにしてあげてください。そしてぜひ、ジェフの赤ちゃんを産んであげてくださいね」
「ああ……。任せておけ」
俺は呆然としながら、その会話をただ黙って聞いてしまっていた。
「でも、来世での私はヒム族に生まれ変わりますので、そのときはジェフをいただきます」
セシィはフッと軽く笑い飛ばし、その提案をける。
「誰がやるもんか。今世でのアドバンテージを利用して、ジェフをあたいに首ったけにしておいてやるよ。だから、来世でもジェフはあたいがいただく。でも……さ」
セシィはここでいったん言葉を区切り、笑みを深めて続きを語る。
「その勝負、受けて立つよ。来世ではどちらがジェフを振り向かせられるか、正々堂々と、真正面から勝負しようじゃないか」
そして右手を差し出すセシィ。その手をセシルもがっしりと握り、握手を交わす。
「ええ。負けません。来世で会いましょう」
俺抜きで話がまとまり、ことここにおよんでようやく再起動した俺は、その未来を否定する。俺はできるだけ声を潜めつつ、声を荒げた。
「やめてくれ! 俺はそんな未来は認めない! それに、だ。セシル一人を死なせはしない!」
そして俺はセシルの目を真正面から見つめ、思いのたけを精一杯伝える。この時、セシルは少し困ったような表情をしていた。
「どうしてもセシルがここに残るというのであれば、俺も残る! セシルが来世にかけるというのであれば、俺も付き合う! だから、セシル! 俺もここで死」
そこまで口に出した瞬間、顎先に鋭い痛みが走る。
俺の意識はここでブラックアウトした。