SOLID STATE ANGEL
第69話 切り込み隊
それからしばらく経過したころ。
とうとうマクシモにこちらの意図がバレたようで、新帝国の鉱山や生産工場のある拠点に分厚く兵力を展開されていた。そのため軍上層部は、これまでのように一点突破で目標を破壊するのは難しくなったと判断したらしい。
しかし、その分それ以外の前線が手薄になったため、連邦は優勢な兵数を生かして前線を押し上げ続けていた。
俺達には前線を押し上げる際に突撃して敵後方をかく乱する役割が与えられ、連日突撃三昧の日々を送っていた。
俺達のあまりにも鮮やかな突撃の様子は味方の評判となり、やがて人類最強の切り込み隊と呼ばれるようになっていた。
その名称を連隊長がいたく気に入り、自分の連隊を切り込み隊と呼ぶようになっていた。
そんなある日。今は突撃前の待機時間だ。そのわずかな時間を利用し、セシィは俺と雑談をかわしていた。
「しっかし、南部の夏は暑いな。北部育ちにはキツイぜ」
「ああ。本当にな。だが、多脚戦車は空調完備で助かる。文明の利器様様だな」
こんな会話からは想像もできないだろうが、今は久しぶりの大規模作戦の開始直前であり、連隊の仲間達からはピリピリとした雰囲気が伝わってきている。
前線全体を押し上げたため、ここの程近くに大陸東部最大の工業地帯が位置している。そのため連邦軍は総力を挙げ、その工業地帯を破壊する作戦が決行されようとしていた。
かなりの大兵力がこの地に集結していて、俺達にはいつものように突撃を利用した支援攻撃が期待されている。
やがて近接戦闘が開始され、俺達の前方の部隊が道をあけてくれる。
そんな俺達にフェルモ連隊長が号令をかける。
「切り込み隊、突撃開始! 今日もご機嫌に敵陣を切り裂け!!」
いつもの手順通りに、俺を先頭にして突撃を開始するフェルモ連隊。ちなみに、死神殺しのパーソナルマークを付けた俺が先頭で突っ込む様子は、もはや切り込み隊の名物になっているらしい。
速度を上げ、敵陣に次々と突っ込んでいく切り込み隊。
なお、以前のようにまっすぐと反対側に突き抜けるのはもはや効率的ではないため、反時計回りに半円を描くように敵陣を突っ切るのが今のセオリーだ。
もう何度も繰り返しているため、慣れた手つきで、無人の野を行くがごとく敵陣を切り裂いていく。
やがて敵陣の真っただ中を半周し、予定されていた出口へと向かう。
ちなみに、この敵陣からの脱出時が一番難しく、緊張する場面だ。
出口付近では敵味方が入り乱れているため、敵だけを選んで吹き飛ばすのは困難だ。そのため、味方が見え始めると左右に避けながら移動しなくてはならない。
連邦軍には多数の連隊が存在するが、これができるのは俺達の切り込み隊だけだ。えりすぐりの最精鋭部隊の看板は伊達ではない。
なお、敵味方の識別だが、連邦の多脚戦車が白で塗装されているのに対し、新帝国は迷彩塗装がなされているため、一目瞭然だ。
俺達が敵陣をかく乱したことにより、そのあたり一帯の敵の圧力が下がる。それに合わせて攻勢を増す連邦軍。次第に前線を押し上げ始めた。
突撃を終えた俺達は後方でしばらく休憩し、集中力を再び高めてから再度突撃を敢行する。二度目の突撃開始時、いつものようにフェルモ連隊長が号令をかける。
「さあ、楽しいお散歩の時間だ! 切り込み隊、突撃開始!!」
猛将の連隊長はこのところご機嫌で、嬉々として突撃を合図している。
俺達の支援もあり、順調に攻撃が進む連邦軍。
戦争の天秤がぐっと連邦側に傾いた実感をかみしめつつ、俺達はさらに奮闘を続ける。
少しでも早く、このろくでもない戦争を終わらせるために。