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SOLID STATE ANGEL

第56話 02攻略戦

 しばらく前線の指定されたポイントで待っていると、やがて小さな人影らしきものが飛来してきた。

 俺はそれを拡大表示し、02であることを確認してから外部スピーカーで挑発を始める。

「俺はここだ! 死神殺しはここにいるぞ!!」

 俺に続いてセシルも挑発を始める。

「私もここにいます」

 俺達の周囲は、戦場のど真ん中であるにもかかわらず味方が少し距離をあけており、ここだけぽっかりと穴が開いたような状態になっていた。

 そこに俺達の小隊だけが陣取っているため、02も見つけやすかったのだろう。すぐにこちらにやってきて、少し距離をとった状態で着地した。

「こざかしい知恵しか回らない旧人類と、廃棄処分の決まった不良品がそろっていて、どんな姑息こそくな罠を用意しているのかと思って来てみれば、何もしてこないではありませんか。抵抗しても無駄だと、やっと理解しましたか?」

 俺はその発言に対し、さらなる挑発で応じる。

「ごちゃごちゃ言わずにかかってこい。そうしないと、弱く見えるぞ?」

 そうすると、02は足の裏からジェットを吹き出し、素早く俺に肉薄してきた。

 続けて繰り出された一撃を、俺は冷静に盾で受け流す。そのまま返す刀で打ち付けてきた02の攻撃を、今度は右手の剣で払って受け流す。

 そうしているうちにセシルとセシィも配置につき、けん制の攻撃を始めた。02の注意がそちらに向きかけると、剣を突き入れて俺に注意を固定させる。その隙に、ウォルターもそっと背後に控えるようにして配置についた。

 02の攻撃は速い。セシル以上だ。その上、こちらの最も嫌な、防御しづらいポイントに正確に攻撃が来る。

 しかし、それだけだ。

 人類に対する学習が明らかに足りていない。これがセシルであれば、フェイントなども多用してこちらをかく乱してくる。しかし、02は馬鹿正直に最適な行動だけを繰り返す。

 これならば、いくら速くても予測が簡単だ。

 そうやってしばらく攻撃を捌き続けていると、おそらくここまで攻撃を防がれるとは思っていなかったのだろう。やがて02は焦り始めたのか、さらに素早い攻撃を繰り出してくるようになった。

 しかし、素早くなった分だけ攻撃が軽くなったので、剣と盾を合わせて捌き続ける。さらにしばらく防御を続けていると、周囲の戦友の一人が外部スピーカーで叫んだ。

「負けるな! 死神殺し!!」

 一人が応援を始めてくれると、それはすぐに広がりを見せた。

「もうお前しか、そいつを止められる可能性があるやつはいないんだ!!」

「殺ってしまえ!!」

 そんな一人一人の応援が俺の力となり、さらなる集中力を得る。

 ただ、02の攻撃は常に正確であるがゆえに隙が無い。

 だが、ないのなら作ればいい。

 俺は02の一撃を受け損なったふりをし、盾を少し左に泳がす。俺の誘いに乗った02は、今までとは異なり、大振りの一撃を振り下ろしてくる。

「ここだ!!」

 俺はあまたの戦場で数え切れないほど繰り返してきた、最も自信のある行動にでる。

 盾を斜めに掲げ、その表面で02の剣を滑らせる。そのまま地面に打ち付けた02の剣を盾で抑え込み、車体重量を預けて一瞬だけ固定。02の動きをほんの少しの間だけ封じる。

 セシィが同時に動く。もはや阿吽あうんの呼吸で俺の動きに合わせ、戦場で練り上げ続けた必殺の攻撃を繰り出す。

 02の左腕が切り離された。

 それに慌てたのだろう。02は俺を振りほどいてセシィに体を向ける。しかし、その隙を見逃すセシルではない。今度はセシルが02に肉薄。

 02の右腕も切り飛ばされた。

 攻撃と防御の手段を一瞬で失った02は少し混乱したのだろう。ごくわずかな時間だけ動きを止める。

 その刹那せつなの時間にウォルターが動く。今までずっと息をひそめて存在感を消してきたウォルターが背後から急襲。愛用の巨大なハンマーが真横に振りぬかれる。

 02の下半身が吹き飛び、両足も失う。

 そのままドサリと音を立て、地面にあおむけに落下した02。その顔は驚愕に染まっていた。

「馬鹿な……。お父様に作られた最高の新人類である私が、この私が、旧人類に後れを取るなどあり得ない。あってはならない……」

 呆然ぼうぜん自失じしつとしている様子の02。そんな彼女に俺は剣を振りかぶりながらゆっくりと近づき、語り掛ける。

「なんだ。少しは人らしい表情もできるじゃないか」

 そして、02に事実を突きつける。

「これこそが、お前が不良品とさげすんだセシルが見出した、俺達人類の強さだ。あまり人類をなめるなよ?」

 02の首を切り離す。

 しばらくすると、02の頭部が爆発。四散した。セシルから指摘されてはいたが、やはり、対策がとられていたようだ。

 その様子を、周囲の戦友達が固唾かたずをのんで見守っていた。そこに、セシィからの近距離レーザー通信が入る。

「ほら、ジェフ。応援してくれたみんなに、お礼の報告をしなよ」

 俺はそれに対し、声を張り上げるのではなく、勝利の証として右腕の剣を高々と掲げた。

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 その直後、周囲から上がる怒号のような勝鬨かちどき

 俺達が人類最強の部隊、人類の切り札と呼ばれるようになった瞬間だった。