SOLID STATE ANGEL
第53話 敗北
「旧人類の希望となっているあなたには、ここで消えてもらいます」
新天使はそう言うや否や、こちらの返答を待たずに突っ込んできた。
「速い!」
俺はかろうじてその一撃を盾で防御できた。しかし、不十分な体制で受けてしまったため、ただの一撃で盾をはじかれ、正面ががら空きになってしまう。
「殺られる!!」
新天使の次の一手に俺の防御が間に合わない。そう判断した瞬間、俺の時間が引き延ばされた。
真っ先に浮かんだのはセシィの顔だった。
ああ。セシィは悲しむより前に、新天使に怒りをぶつけるんだろうな。できれば、俺のことなんか無視して、一目散に逃げてほしい。
そして、次に浮かんだのはセシルの顔だった。
俺が見向きもしなくなると想像しただけで、自壊しそうになった彼女のことだ。どんな反応をするのか、容易に想像がつく。しかし、セシルの頭の中の情報は、人類にとって至宝だ。できれば、自重してほしい。
俺はあきらめとともに、やけにゆっくりと迫ってくる新天使の剣を眺めていた。その時、何かが割り込んできた。
「セシル!!」
俺は一瞬で我に返り、割り込んできた機体の操縦士の名前を叫ぶ。
同時に、セシルの機体の操縦席のあたりがはじけ飛び、俺の背筋が凍り付く。
「セシル!! 返事をしてくれ!!」
俺は近距離レーザー通信を接続する手順も忘れて、外部スピーカーで絶叫していた。
永遠とも思える一瞬の時間の後に、セシルからの近距離レーザー通信がつながる。
「私は無事ですので、外部スピーカーで名前を叫ぶのはやめてください」
その指摘に、俺は外部スピーカーを手早くオフにしてから、安どのため息を吐く。しかし、ノイズ交じりで表示されているセシルの姿を確認し、俺は再び凍り付く。
左腕の部分が完全に吹き飛んでおり、内部構造が一部露出している。
「セシル!! 早く俺の後ろに!!」
俺が前に出てかばおうとすると、セシルの機体が動き、俺の邪魔をする。
「だめです。それでは、ジェフが死んでしまいます」
あくまで俺をかばおうとするセシル。
そうだ、目の前には新天使がいる。このままではセシルが殺られてしまう。
俺は焦りから正常な判断ができなくなり、なんとかセシルを制して前にでようともがく。その時、不思議と攻撃してこなかった新天使が口を開く。
「おや? あなたは旧人類に興味を持ちすぎた結果、あろうことか、旧人類相手に不覚をとった欠陥品ではありませんか」
セシルの機体は操縦席のあたりの装甲が吹き飛んでいるため、その姿が露出していた。それを確認して、新天使が続けて語り掛ける。
「そうでしたか……。最近の旧人類の急激な技術革新は、あなたが裏切っていた結果でしたか。さすがは不良品です」
そして新天使は少し首を傾げ、考えるそぶりをしてから続きを語る。
「これは、私が判断するには重大すぎる案件ですね。お父様に相談しましょう」
俺には見向きもせずに、新天使はそのまま新帝国の方向へと飛び去って行ってくれた。
「見逃してくれた……のか?」
思わず安どのため息を再び漏らし、改めてセシルを見る。
「セシル。大丈夫なのか?」
そうすると、セシルは自分の体を見つめ、意外なことを語り始めた。
「ええ。大丈夫です。ですが、ジェフ。恥ずかしいので、あまりジロジロと見ないでほしいのですが?」
それで改めて確認したが、セシルの服もひどい状態だ。
「す、すまん!」
俺は慌てて近距離レーザー通信の表示ウィンドウを閉じ、音声通信のみに切り替えた。
こうして、俺達は新天使に対し、なすすべもなく完全に敗北した。
しかし、俺達の命は残っている。で、あれば、いくらでもやりようはある。
いつまでも敗北しっぱなしではいられない。それでは、いつか殺られてしまう。新たな対策を考えなくてはならないだろう。
俺達がこの戦争を生き残るために。