先祖返りの町作り(再調整版)
第213話 ヴァルチェの都市攻防戦
それから、さらに1か月後。
王国軍は残った兵力をかき集め、進路上では王都を除けば最大の都市である、ヴァルチェの都市へと集結させているらしい。
軍議の席で、ゲイル将軍が発言する。
「籠城戦を選択されると、少々厄介ですな」
私はそれを否定する意見を述べる。
「そうですか? 私はその方が助かりますが」
幕僚達の視線が集まったので、私はその理由を説明する。
「王国軍の残存兵力を考えると、籠城された所で、大規模な援軍は送れるはずがありません。ですから、包囲してゆっくりと茶でも飲みながら、兵糧攻めとしゃれこみましょう」
それに対して、幕僚の一人が反対意見を述べる。
「しかし、それでは時間がかかりすぎるのでは?」
私はそれでも構わないと説明する。
「以前とは状況が違い、時間は我らの味方です。ですから、じっくりと包囲して待っていれば、各地の方面軍が、やがて王国全土を掌握するでしょう。
それからゆっくりとこの地に集結し、全軍をもって攻めれば、余裕で勝てますよ?」
それからしばらく進軍していくと、斥候からの報告が入った。
「敵軍は野戦を選択した模様です。ヴァルチェの都市の前方の街道上に、陣地を構築中」
それから開かれた軍議では、今回採用する陣形等を説明した。
「相手はあらかじめ陣地を構築しています。力攻めでも負けはしませんが、防護用の柵も用意していますから、こちらの被害も大きくなります。
そこで、少し部隊運用を工夫します。少し複雑な連携が必要になりますが、なに、これまで実戦経験を積んだ我らであれば、必ず完遂できるでしょう」
そして、予定通りに街道を進み、敵の陣地前でこちらも布陣した。
我が軍の陣形は、縦深陣だ。数的有利にあるため、縦に長い陣形で、本来は防御陣形である。
だが、今回はこれを一工夫して攻撃に用いる。
進軍の合図とともに、我が軍がじりじりと前進を始める。
前回までと違い、相手は陣地にこもっているため、こちらだけが進み続ける。そのため、三段構えの射撃体勢を取らず、歩いて進みながらの射撃になっている。
射撃密度がぐっと下がっているため、相手にほとんど被害が出ていない。
それを見た敵は好機と見たのか、大盾を掲げて陣地から出撃し、じりじりと進み始めた。
私はにんまりと笑みを浮かべる。
「よし。予定通りですね」
そのまま無策を装い、密度の低い射撃を続けさせる。
そして、かなり接近を許し、そろそろ敵の後方部隊の弓が届きそうになった時点で、新たな命令を下す。
「全軍、第二陣形へ移行」
「はっ。全軍! 第二陣形へ移行!」
いつもの復唱の後に、太鼓が鳴り響く。
それに合わせて、真ん中が割れるようにして、左右に陣形が分かれてゆく。
それを見た敵軍は、こちらが怯んでおり、好機だと見たのだろう。その隙間に殺到してゆく。
こちらの真ん中がどんどんと割れてゆき、まるで無人の野を行くようにして、本陣へと迫る敵軍。
しかし、これこそが私の狙いなのだ。
そして、もう少しで本陣という所で、敵は異様な陣形を取った集団を見る事になる。重装備を着込んだ歩兵達が、盾をずらりと並べて槍を掲げている。盾は自分の体の左半分と隣の兵士の右半分を覆い、がっちりとガードを固めている。
この陣形はファランクス、あるいは、重装歩兵密集陣形と呼ばれるものである。前方の敵に対して非常に強固な防御力を誇る。
有名なテルモピュライの戦いでは、わずか300人のスパルタ兵が、20万ものペルシア軍を釘付けにした陣形である。
ガイン自由都市軍の誇る最強の防御部隊によって、敵軍の足がついに止まる。
それを見計らって、次の命令を下す。
「第三陣形へ移行」
「全軍! 第三陣形へ移行!」
鳴り響く太鼓の音に合わせ、左右に割れていった部隊達が横を向き直し、半包囲の状態を作り出す。
そう。相手が陣地に立てこもっているのであれば、誘い出せば良い。そのために、中央突破されたように偽装したのだ。
そして、左右の部隊が、そのままいつもの三段構えの射撃体勢を速やかに整える。
「射撃開始」
「左右の両部隊! 射撃開始!」
そして始まる猛烈な射撃。
敵軍はあっという間に壊滅を始めた。唯一開けておいた逃げ道の後方へと、我先にと殺到する。
味方を押し倒し、踏みつぶしながら逃げまどう貴族達。
こうして、我々は三度目となる大勝利を手にした。そして、そのまますんなりと、ヴァルチェの都市を占領したのであった。