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先祖返りの町作り(再調整版)

第180話 しりんだー

 私はすぐさま、蒸気機関の研究を開始した。

 まずは基本的な部品である、シリンダーの開発から行う。シリンダーとは、ピストンを含む上下運動する円筒形の部品全体の事である。

 このシリンダーの基本的な構造と動作の仕組みは、以下の通りになっている。

 まず、熱せられた蒸気をシリンダー内部に送り込む。

 そうすると内部の圧力が高まるため、押し広がるようにピストンが動く。

 その後、内部の蒸気を逃がすようにふたを開ける。

 その結果、今度は内部の圧力が下がるため、縮まるようにピストンが動く。

 こうして、上下運動を繰り返すのである。しかし、ただ上下するだけでは、各種機械の動力源としては扱いづらい。

 そこで、上下運動を回転運動に変換するのが、クランクシャフトやコネクティングロッド等と呼ばれる一連の部品である。

 この2つの部品は、言ってしまえばただの棒だ。接続部分の形状に工夫は必要であるが。

 動作の様子を動画で見ると非常に分かりやすいため、詳しくは、図解付きの解説サイト等を参照して欲しいのだが、割と単純な構造で回転運動に変換できるのである。

 シリンダーの開発において、最も難易度が高いと思われるのは、実はピストンの外壁の部分である。

 激しく上下に動くため、この部分は、摩擦力やそれに伴う摩耗等が問題になる。だからといって、密閉性を下げて緩く作ってしまうと、圧力が逃げてしまい、力が伝わらなくなる。

 密閉性を保ったまま、なめらかに動かすためには、形状や潤滑油等を工夫する必要が生じるのだ。

 ただ、外燃機関では、内燃機関ほどにはシビアに作らなくても良いはずだ。

 これは、シリンダー内部で爆発させて圧力を得る内燃機関に比較すると、あらかじめ圧力を持った蒸気を送り込む外燃機関の構造の単純さによるものだ。

 まずはシリンダーが一つだけの、最も単純な構造で研究を開始したのだが、やはりこの部分で少し行き詰まりを見せている。

「まあ、あせっても仕方がありませんね。じっくり腰を据えて、試行錯誤を続けましょう」

 私はそのように自分に言い聞かせながら、根気強く研究を継続するのであった。