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先祖返りの町作り(再調整版)

第163話 新たな故事成語

 ゾウキンバクダンが完成して、しばらくが経過した頃。

 今日は領主のリョウマをはじめとした関係者を集めて、ガイン自由都市の外に作った野外演習場で、新兵器のお披露目も兼ねた実弾訓練を行っていた。

 兵士達にはゾウキンバクダンの他に、ヒデオ工房特製の可能な限り小型化した火種の魔道具を持たせている。

 兵士達はそれを使い、導火線に次々と着火して的に投げつける。ちなみに、的として用意されているのは、えあがんの実弾訓練用の鉄製の鎧である。

 一定範囲内のそれらが、まとめて吹き飛んでいく。そのあまりの威力に、関係者各位は皆引き気味である。

 皆を代表して、リョウマが感想を述べる。

「これはまた、恐ろしい武器を作りましたね……」

 しかし私にとっては、この現状は非常に不満の残るものであった。

「いえ。全然ダメですね」

 私のその返答がとても予想外だったようで、続けてリョウマが質問を開始する。

「お、大おじい様は、いったい何を目指して開発しているのですか?」

 私はとりあえずの目標を語る。

「『りゅう弾砲』ですね」

 りゅう弾砲が完成したら、次は自走砲や戦車の開発も目指してみたい。

 今なら制空権が取り放題なので、何らかの方法で空爆をするための兵器も、できれば開発してみたい。

 私は頭の中だけで目指すべきものを思い浮かべていると、リョウマが質問を重ねてきた。

「それは、どのようなものですか?」

「まず、もっとバクダンの威力を上げます。そしてそれを『砲弾』……、大型の弾丸ですね。その形に詰め込み、えあがんを巨大化させたもので発射します。

 この『砲弾』は、着地した瞬間に大爆発を起こすようにしておきます。

 『砲弾』は鉄製が望ましいのですが、重すぎて無理なようなら、内部に金属片を多数入れておくと効果的です」

 リョウマの頬が、ヒクッと引きつったのが分かった。

「どのように効果的なのでしょう?」

「爆風では効果が薄い範囲であっても、飛び散った金属片の一つ一つが小さな刃物のようになって、雨あられと敵を切り裂きますので、広い範囲の敵を効率的に滅殺できます」

 リョウマの頬を、たらーっと冷や汗が伝い落ちる。

「そ、そんなものを、どのように使うのですか?」

「この『りゅう弾砲』を多数そろえて、『砲兵』部隊を作ります。そして、一斉射撃を継続して行うことで、敵陣を一瞬で更地にできるでしょう」

 リョウマはここまでの説明を聞くと、がばっと音がしそうなほどの勢いでこちらに振り向き、私の両肩をつかんでガクガクと揺さぶり始めた。

「大おじい様! しっかりしてください! 明らかにやりすぎです!!」

 私は頭を揺さぶられながら、ギロリと目線でリョウマを威圧する。

「なぜですか? 人類を衰退させる方向にしか役に立たない連中等、まとめて消し飛ばした方が、よほど世の中のためになるでしょう」

 周囲から、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 ここで、リョウマは私の眼を覚まさせる、決定的な言葉を放つ。

「その敵軍は、大部分が平民で構成されていますよ!

 大おじい様は、王侯貴族の命令に逆らえなかったというだけで、それらの平民ごと吹き飛ばしても構わないと、そうおっしゃるのですか!!」

「あ……」

 一瞬で我に返る。

 私は自分のあまりにもな暴走っぷりに、ここで初めて気付き、思わず視線をさまよわせながら続きを語る。

「わ、私もちょっと、熱くなりすぎていたようですね……」

「では、リュウダンホウとやらの開発は?」

「もちろん、完全に計画を破棄します。ええ。これ以上の武器開発の全てを、白紙に戻します」

 この場の全員から、安どの溜息がこぼれるのが聞こえてきた。

 それからしばらくが経過した頃。

 この一件が噂になって広がり、「初代様の前で本を焼く」という、新しい故事成語が誕生した。

 前世での「逆鱗に触れる」と同じ意味合いで使われている。

 また、この噂が広まる過程で、開発しようとしていた武器の内容がだんだんと大げさになって伝わっていき、

「初代様は怒りのあまり、王国ごと一瞬で吹き飛ばすような新兵器を開発しようとしていたらしいぞ?

 ご子孫の領主様が止めてくださらなければ、実現可能な開発目標まで、既に準備していたそうだ」

 と、まことしやかに語られるようになっていった。

 その結果、この新しい故事成語は、「普段はおとなしい人を本気で怒らせると、周囲を巻き込んで破滅する」という意味でも、使われるようになるのであった。

 ちなみに、厳密な意味での故事成語という言葉は、中国の古典が由来の教訓という意味であるが、この場合は翻訳の都合で、昔あった事柄による教訓という意味で使っている。