先祖返りの町作り(再調整版)
第133話 六代目の子孫
それから、さらに3年が経過した頃。
23歳になっていたリズが、ようやく結婚した。なかなか特定の恋人を作りたがらなかったため、周囲をやきもきさせていたが、これはと思う殿方を見つけてくれた。
リズは常々、
「どんな状況になっても私を守ってくださる、強い殿方が理想のタイプです」
と、公言していた。
(それはそのまま、カズシゲが理想のタイプって事ですよね?)
と、家族は皆思っていたが、誰もツッコミは入れなかった。どうやら、カズシゲが可愛がり過ぎたため、すっかりブラコンに成長してしまったようだ。
そうやって、やっと見つけてきたお婿さんは、ダラスさんといって、ガイン自由都市軍の幹部候補生である。
彼は、若手のホープとみなされるほど精強で、盾を使った盤石な守りからの堅実な攻めを得意としている、かつてのエルクを思い出させる男性である。
(メイといい、リズといい、私の家系はブラコンになりやすいのでしょうか?)
私はそんな、益体もない事を考えていた。
無事にリズが結婚式を終えて、1週間ほどが経過した頃。ミリアさんが産気づいた。無事に生まれてくれさえすれば、我が家はおめでた続きになるため、家族の期待を一身に背負いながら、ミリアさんは出産に臨んだ。
(ミリアさんが、プレッシャーを感じなければ良いのですが)
と、私は密かに心配していたが、彼女は私が思っていた以上に強い女性だったようで、すんなりと男子を出産した。
初代の私から数えて六代目となる、直系の子孫の誕生である。
生まれた男の子は、黒髪に茶色い瞳という、どこかエストの面影がある赤ちゃんだった。
そしてカズシゲは、かつてのシゲルと同じように、頑張った自分の妻をこれでもかと褒めたたえていた。
やはり親子だなと私は思いながら、微笑みつつ眺めていた。
しばらくすると、カズシゲは我が子をそっと抱き上げ、私に丁寧に渡してくれる。生まれたばかりの赤子を抱きながら、私の頬もゆるみっぱなしになった頃。
カズシゲは、かつてのエストとシゲルの取り決めをちゃんと知っていたようで、私に三度目の恐怖のお願いをする。
「では、大おじい様。この子に名前を与えてやってください。私やお父様のような、森の隠れ里の雰囲気のある素敵な名前を、ぜひともお願いしますね」
私は、やっぱりこうなるのかと頭を抱えたくなったが、ぐっとこらえて、赤子を抱き続けた。
それから数日、さんざん名前で悩みまくった私は、ある事実に思い至る。
(私の壊滅的なネーミングセンスで名付けようとするから、ひどい事になるのです。ここは、歴史上の偉人から名前を拝借しましょう)
そう思い付いた私は、「リョウマ」と命名した。
「リョウマというのは、ここからは遠い国で、魔物の王とも、土地神様とも言われているリュウを、馬として乗りこなすほどの立派な人物になりますように、という意味です」
私のもっともらしい解説に、カズシゲはとても喜んでいたが、もちろん、名前の由来は坂本龍馬である。
私はその事実をそっと胸にしまい込み、墓まで持っていくことに決めた。
リョウマもいずれは私より先に年老いてしまい、私を置いて旅立つだろう。
しかし、だからといって、この子に愛情を注がずに育てるという選択肢は、私にはどうやっても取れない。
ならば、エストとの約束通り、せめて笑顔で見送る覚悟を最初からしておこうと、固く心に誓った日であった。
いつか、遠い未来、あの世で再開した時に笑顔で会ってくれるように、私は全力を尽くそう。
そう、誓った。