先祖返りの町作り(再調整版)
第124話 温度計
私がその次に行ったのは、セルシウス温度の測定と決定である。そのためには、純粋な水と、1気圧の環境が必要である。
これらさえ整えば、氷は私のオリジナル魔法で作り出せるし、沸騰させるには普通に火を用いれば良い。
このうち、純粋な水に関しては、水魔法で作り出す水が相当すると仮定した。この水で容器を何度も洗って測定する。
水に不純物が混じると、モル沸点上昇やモル凝固点降下と呼ばれる現象が発生するためである。
よって、残る問題は、1気圧をどうやって計測するかである。日本で一般的な気圧の単位であれば、1013ヘクトパスカルが1気圧である。
このヘクトパスカルという単位は、圧力の単位であるパスカルに、100を意味する補助単位であるヘクトを加えたものである。つまり、101300パスカルが1気圧に相当する。
なぜこのようになっているかと言えば、ヘクトパスカル以前に使われていた単位であるミリバールからスムーズに移行させるためであると考えられる。
そして、パスカルは、力の単位であるニュートンを面積の単位である平方メートルで割り算して求められる。
つまりは、MKSA単位系で表現できる。
また、1気圧は、別のもっと簡単な方法でも求められる。水銀柱ミリメートルと呼ばれる方法である。
大気圧によって押し上げられる水銀柱の高さで、気圧を計測すれば良い。この方法であれば、水銀柱の高さが760ミリの時が1気圧である。
ただ、やはり、前世の単位の換算方法が不明なため、どちらも計測不能である。
しばらく考えたが、晴れた日の領主館の気圧を1気圧と仮定する事にした。
この星と地球の環境は非常に良く似ているため、それほどのズレはないと判断したためである。
ただ、晴れた日は高気圧に覆われているため、1気圧より若干高いと思われる。
しかし、高気圧というのは、周囲と比較して気圧の高い部分の事である。何気圧から高気圧という定義は存在しない。
そのため、高気圧の中心部でも、1013ヘクトパスカルからはそう大きくはズレない。
そしてこの程度の気圧差であれば、凝固点や沸点に与える影響はごく小さいと判断したのである。
ここまで考えれば、後は実際に計測するだけである。
ただ、凝固点を0度、沸点を100度として、間の温度を100等分できる温度計が必要な事に気が付いた。
またしばらく考えたが、水銀温度計を作成する事にした。
前世の日本であれば、もっと安全なアルコール温度計が存在する。ただ、アルコールは沸点が約78度であるため、100度までは計測できない。
そのため、アルコール温度計という名称にも関わらず、実際には灯油が用いられている。しかし、石油が発見できていないため、灯油は入手不可能である。
そのため、それより以前に良く使われていた、水銀を用いる事にした。ただ、水銀は人体に有害な物質であるため、その取扱いには細心の注意が必要である。
私はガラス職人にその事を教え込み、慎重に取り扱ってもらって、温度計を作成した。
このように、試行錯誤を続けながらセルシウス温度を計測し、それに273を足し算して、物理に必要なケルビン温度を決定したのであった。