先祖返りの町作り(再調整版)
第111話 対陣
国王からの使者を追い返してから、1年ほどが経過した頃。
未だ貴族連合軍は挙兵できないでいた。
私はあれからすぐに諜報専門部隊を組織し、各地に放って情報収集を続けていた。それによると、やはり平民の傭兵達が非協力的なため、なかなか思うように編成作業ができないでいる模様だ。
それに対して、こちらは時間が稼げた分だけ準備万端になっていた。
噂を聞き付けた、腕に覚えのある傭兵達が国中から続々とガインの都市に集結していて、編成作業の方が難しいぐらいである。
傭兵だけでなく、職人や商人といった一般民衆からも、ぜひとも自分達も平民の都市を守りたいと入隊希望者が殺到したが、さすがに訓練する時間がないため、丁寧に説明してお断りしている状態である。
そんな状況に業を煮やしたのか、他の貴族達は強権を発動し、領地から出る平民を厳しく制限し、無理やり徴兵した傭兵をまとめてついに挙兵した。
諜報員からの情報では、後2日ほどしたら接敵する予定である。
エストは自ら陣頭指揮を執りたがったが、領主に万が一の事があれば、ガイン警備隊の士気に深刻な影響を与えると説得し、私が総大将として指揮を執っていた。
「私はこれでも、ガルムの都市で一番大きな傭兵団の副団長だったのですよ?」
そう言って、エストを宥める事に成功した。
本心では、兵を指揮した事のないエストに、一抹の不安を感じていたためである。
そして、平野部に陣地を敷いた私の元には、諜報員からの続報が次々と入ってきていた。兵力としてはこちらの倍ほどらしいが、士気はやはり最悪に近いらしく、ちょっとしたサボタージュ等も頻発していて、行軍するのにも難儀している様子だ。
それに対してこちらの士気は最高潮で、平民のための都市を必ず自分達の手で守り、お貴族様に一泡吹かせてやると、陣の各所で時々雄たけびが上がっている。
ただ、凄腕の傭兵は集まったが、集団としての訓練時間が少なかったため、こちらも単純な横陣で迎え撃つ事になった。
複雑な部隊運営は、まだ無理だと判断したためである。
それから3日後の午後過ぎ。予想よりもかなり遅れて、ようやく貴族連合軍と対峙した。
徴兵された傭兵達は、いやいや従っている様子が遠目でも判断できるほどのありさまである。最前線の傭兵達は、あからさまに前進する事を嫌がっている様子で、後方で貴族とおぼしき騎兵達がさかんに行き来して、追い立てるようにして前進を声高に連呼していた。
(これなら楽勝そうですね。油断は禁物ですが)
私がそう思っていた時、それは突如として起こった。
最前線の傭兵の一人が叫んだのだ。
「やってられるか!! 俺達平民のための都市を守る軍隊と、本気で戦える訳がないだろう!!
俺はもう止めた!! 皆もさっさと逃げ出そうぜ!!」
そう言って、武器を地面に投げつけ、手早く防具を脱ぎ去って、こちらに走ってきた。
(これはチャンスです!)
私はそう判断し、手早く部隊長達に連絡を飛ばす。その指示に従い、前線の各部隊から投降を呼びかけ始めた。
「投降しろ!! 武器を捨ててこちらに逃げてくるなら、こちらからは攻撃しない!
当面の宿泊先として宿屋を公費で無料開放するし、移住を希望するものには一時金を与え、しばらくの間の生活費を保障する!
これは、ガイン家の初代様のお言葉だ!!」
前線で連呼される投降の呼びかけに、雪崩を打ったように次々と傭兵達が武器を捨て始めた。
こうして、一度も戦う事なく、誰一人として血を流す事もなく、貴族連合軍との戦いは勝利で終わった。
貴族達から見れば、戦う前に敗北してしまった訳で、このありさまを見せつけられた貴族達の間で、以下のような事がささやかれるようになった。
「ガインの町を平民を使って攻めるのは無理だ。それを押し通すとなれば、大規模な反乱を想定しなくてはならないだろう」
そうして、ガインの都市は、次第に手出し無用の土地として認識されるようになるのであった。