先祖返りの町作り(再調整版)
第110話 献上拒否
デンタクが発売されて、しばらく経過した頃。
ガインの都市の領主館に、見た事もないほど立派な馬車がやって来た。馬車から降りてきた男性は国王の使者を名乗り、応接室の上座で待っていた。
執務室で仕事をしていたエストと私は、呼ばれてその前にたどり着くと、いきなり跪くように言われ、なんだか良く分からないうちに国王様のありがたいお話とやらを聞かされた。
「国王様は、デンタクの魔道具にとても興味を示された。大変名誉な事なので、すぐにデンタクを献上するように」
それを聞いたエストは、跪いたまま私に視線を向け、語り掛けた。
「おじい様。私が領主として許可しますので、デンタクの開発者として、そして、この領地の初代として、使者様に言ってやってください」
私は頷いて、使者を見つめて返答する。
「そのような理不尽な命令は、断固として拒否します」
「なっ……」
使者は顔を真っ赤に染めて、ワナワナと震えている。
私はそれに追い打ちをかけるように、すくっと立ち上がってそのまま話を続ける。
「5年前に他の貴族家達がこの都市に向かって挙兵しようとした時、王族は何をしてくれましたか?
仲裁も何もしてくれませんでしたよね? 肝心な時に全く助けてくれない王族なのに、こんな時だけ都合よく従うように命令されても困ります。
いまさら、ふざけているのですか?」
使者は、私とエストを交互に睨みながら確認を取る。
「本気なのか? それとも、国王様の命令を拒否するとどうなるか、平民上がりにはやはり理解できないのか?」
私はその目を真っすぐと見つめたまま、続きを語る。
「別に売らないと言っている訳ではありません。欲しいのでしたら、普通に予約を取って順番を守って買ってください」
「ふざけるな!! 国王様への献上品と平民の予約を、同列に扱うと言うのか!!」
私は頷いて、肯定する。
「ええ。そうです。あなたもおっしゃっていた通り、我が家は平民上がりですので、平民の味方です。
貴族だからとか王族だからといって、特別扱いはしません」
しばらく口をパクパクさせていた使者だったが、再び我々を睨みつけて、最後の言葉を放った。
「……後悔する事になるぞ」
そう捨て台詞を吐いた後、のしのしと、元来た馬車に戻っていった。
その姿を見送ったエストは、私を見て、ニヤリと笑った。
「さすが、私のおじい様です。スカっとしましたよ」
「ですが、これから戦争になるでしょう。急いで準備を整えなければなりませんね」
「でも、状況的には、5年前とさほど変わりませんよね?」
私もニヤリと笑って応じる。
「そうです。しかも今回は時間的猶予があるので、しっかりとした準備もできます。必ず追い返して見せましょう」
そして、私達はこの会話の内容等を全て領民達に公開し、貴族達が報復のために挙兵する事は確実である事も合わせて説明した。
その後、ガイン警備隊への入隊希望者を募り、食料や医薬品等の備蓄も始めた。
この話を聞いた平民達は、貴族からの報復を恐れるのではなく、国王が相手でも一歩も引かず、平民の味方をすると宣言したガイン家に喝采を浴びせてくれて、領地総出で戦争準備を始めたのであった。