先祖返りの町作り(再調整版)
第103話 合金の研究
それから私は、無理を言って都市の鍛冶屋に弟子入りさせてもらい、冶金の方法を学びだした。あの金色の粉を混ぜ込んだ、合金の研究をするためである。
あの粉そのものは発表できなくても、魔力を通しやすい合金ができれば、かなり安価に魔道具が提供できるようになる。
ルツ親方の研究では、糸を使った配線は魔力伝導率が極端に悪かった。これは有機物と無機物の違いではないかと、仮説を立てた。
魔石に魔力を込めるほど、抵抗力が増える。これと同様に、植物由来の糸では抵抗力が高くなり、魔力がほとんど流れないのではないかという仮説だ。
であれば、金属などの無機物を使って合金を作れば、魔力伝導率の良い配線ができるはずである。
鍛冶屋の親方はラゴンさんという人で、かなり体格のいいゴリマッチョである。
「親方。無理を言ってすいません。ただ、鋳造や鍛造の方法は教えていただかなくても大丈夫です。合金を作るための冶金技術だけ、伝授してもらえませんか?」
「親方はよしてくださいよ。初代様にそんなにかしこまられると、こっちが恐縮してしまいまさぁ」
「しかし、無理を言って教えを乞うのですから」
ラゴンさんは手で私の主張を遮って、自説を述べる。
「初代様。この都市に住む住民であれば、誰しもあなた様のお世話になっているこたぁ、身に染みて理解してますぜ。
そんな人が俺のチンケな工房に、自ら足を運んで勉強なさろうとしていまさぁ。それだけでもかなり名誉な事なのに、この上敬称で呼ばれたりしたら、ほかの住民達からの嫉妬が怖いんでさぁ」
そしてラゴンさんは、快く冶金技術を伝授してくれた。
私はそれの謝礼として、いくばくかの礼金を渡そうとしたのだが、これも固辞された。
「初代様。あなた様がなさろうとしている事が何なのか、俺にはわかりません。しかし、あなた様のやる事であれば、俺達平民のためになる事でしょう?」
「ええ。もちろんそのつもりです。この研究が実を結べば、魔道具が安く提供できるようになるはずです」
「でしたら、なおさらお金は受け取れませんぜ。平民のために使う事だけ、約束してください」
そうやってラゴンさんと約束を交わし、私は合金の研究を開始した。
まず手始めにやったのは、私専用の小さな冶金工房を作った事だ。配線に使う程度であればそこまでの規模は必要ないので、これで十分だと判断したためである。
それから研究を開始してすぐに判明したのは、やはり、有機物を混ぜ込むと魔力伝導率が極端に下がる事だった。
しかし、それであれば、魔石やそれから作られるあの粉も有機物のはずであるが、おそらく魔石由来のものだけは、ある種の例外なのだろうと結論付けた。
そうやって、混ぜ込む金属の種類を変更したり、量を変更したりしながら研究を続け、最も魔力伝導率の良い配合を探し始めた。