Novels

先祖返りの町作り(再調整版)

第94話 地引網漁と歓待の宴

 それからしばらくして、里の中央に集まった皆に、クリスさんが直々に私の紹介を始める。

「こちらが、森の同胞の祭司様です。遠路はるばる、我らの里までお越しいただきました」

 島の里の皆は、私の里と同様に温厚な様子で、暖かく私を歓迎してくれた。夜には、私を歓待するための宴まで開いてくれるらしい。

 ただ、まだ昼前であるため、時間があった。

 そのため、この里の生活の様子が見てみたいと申し出ると、クリスさん自ら案内してくれる事になった。

 最初に見に行ったのは、漁の様子である。私の里には海や川がないため、どのように漁をしているのか興味があったためだ。

 海辺に行くと、小舟で網を沖合に投げている様子が見て取れた。どうやら、ああやって網を張り、陸地から引き上げる地引網漁のようだった。

 私は早速、クリスさんに質問してみる。

「あの漁法は、何というのですか?」

「あれは、地引網漁と申します」

 この世界での、地引網漁にあたる単語を私は知った。

 それから、お昼ご飯として出された焼き魚と魚介類のスープは、塩とハーブのみの味付けではあったが、出汁が良く出ていてとても美味しかった。

 私も何か、宴の食材を提供したいと思い、鳥でもいないかと空をきょろきょろと見渡していた。

「ヒデオ様。何を探しておいでなのです?」

「鳥でも狩れないかと思いまして」

「それではなぜ、地面ではなく空を見上げているのです?」

 私がどうやって説明しようかと考えている時、白い4羽のチル鳥を発見した。

 行動して見せた方が早いなと思い、魔法を発動する。

『多重風刃』

 チル鳥はまだかなり遠方であったが、見える範囲であれば命中させる自信はある。

 そうやって、4つのかまいたちをホーミングさせ、全て首に命中させた。その様子を見たクリスさんは、とても驚いていた。

「まさか、あのような距離の鳥の首に、正確に命中させる事ができるだなんて……。森の同胞の魔法の腕はすごいのですね」

「いえ。私の里でも、これは私にしかできません」

「では、ヒデオ様はどのようにして、その腕を身に着けられたのですか?」

 どのようにと言われても困ってしまう。私は正直に説明する事にした。

「私は小さい頃から魔法がことのほか好きで、ひたすら魔法制御の訓練を繰り返していたら、いつの間にかできるようになっていました」

 そんな会話を楽しみながらチル鳥の落下地点まで歩き、里でいつもしていたように、血抜きと解体をすませた。

「これで私も、今夜の宴に貢献できましたかね?」

 私がクリスさんに質問すると、彼女は、尊敬のまなざしで返答した。

「もちろんです。このようなごちそうを一度に4羽も食べられる機会は、まずございませんから」

 そうやって里に帰り、調理担当をしているご婦人方に鳥肉を渡すと、とても喜んでくれた。

 それから始まった宴の席で、

「これは、森の祭司様と祭司長様で食べてください」

 と言って、私達にチル鳥の香草焼きが渡された。

 残りの肉はどうやって食べるのかと思い、尋ねてみると、子供達に分け与えるようだ。

「それでは、子供達の一人分が少ないでしょう。私はいいので、子供達に分けてください」

 私がそう申し出ると、

「いえいえ。森の祭司様が直々に狩ってこられた肉です。お客人に、これ以上のお手数はおかけできません」

 そういって辞退された。

 チル鳥の肉を分けられた子供達の様子をこっそり観察してみると、仲良く分け合って食べていた。

「やはり、この里の皆も私の里と同様で、とても仲が良くて素晴らしいですね」

 私がそう感想を述べると、クリスさんが質問してきた。

「では、森の同胞もやはり、仲が良いのですね」

「ええ。私の里でも、めったに争い事は起こりません。大声で叱られたのも、子供の時の一度きりでしたね」

「まあ。何をしてそのように叱られたのですか?」

 私は少し気恥ずかしくなって、頬をポリポリとかきながら説明した。

「初めて魔力の使い方を教わった時に、うれしすぎて魔力を使い過ぎてしまい、連日気絶したのです」

 私がそう告げると、なぜかクリスさんは怒った様子で私を叱る。

「そのような事をすれば、叱られて当然です!」

 その剣幕に少し驚いていると、クリスさんは続きを語った。

「もしその時に心臓が止まってしまっていたら、このような素敵な出会いもなかったのですから。ヒデオ様、約束してください。二度と、気絶するまで魔力は使わないと」

 私は一つ頷いて、同意する。

「クリスさんのおっしゃる通りですね。私が愚かでした。約束します。素敵な出会いを提供してくださった、ご縁の神様でもある風の神様に感謝して、少し飲みましょう」

 それを聞いたクリスさんは、とてもうれしそうに頷いて、しばらくは、二人でチビリ、チビリとお酒を楽しんだ。

 この里には、火魔法と光魔法も伝わっているようだ。

 火種の魔法で火を点けたかまどで調理を行い、光球の魔法で辺りを照らしながら、宴は進んでいった。

「この里には、火魔法と光魔法も伝わっているのですね」

「森の同胞の里には、伝わっていないのですか?」

「ええ。おそらく火魔法は、森で大きな火を扱うのは危険ですから、だんだんと廃れていったのでしょう。光魔法が伝わっていないのは、ちょっと理由が分かりませんが」

 そうやって、クリスさんとの会話を楽しみ、やがて始まった島の里でのお祝いの踊りを鑑賞していると、宴は終わりを告げた。

 その後、今は空き家になっている小屋を紹介されて、私は宴に十分満足して、そこに泊まった。