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先祖返りの町作り(再調整版)

第81話 学問の父

 高等学校の開校を、1週間後に控えた深夜。

 メイが産気づいた。

 メイの新居に全員集合した家族達であったが、少し難産だったため、お父さんになるゴランさんとおじいちゃんになるエルクは、落ち着きなく、ウロウロしっぱなしであった。

(こういう時は、女性の方が落ち着いているという話は本当だったのですね)

 特にゴランさんは、何度も何度も、大地の神様に真剣にお祈りを捧げていた。

 あまりにも真剣にお祈りを繰り返すので、私はつい、里に伝わる大地の神様へのお祈りの祝詞を教えた結果、

「ぜひ、祭司様であるおじい様も一緒にお祈りしてください!」

 と、ゴランさんに必死にお願いされたため、一緒に祝詞を唱え続けるはめになった。

 ちなみに、この世界での大地の神様は、豊穣と出産、そして、子孫繁栄を司っている。

 やっとの事で生まれた子供は男の子で、後にキースと名付けられた。おばあちゃんである、ルースにあやかった名前だそうだ。

 父親となったゴランさんは、号泣しながら歓喜していた。

(以前から思ってはいましたが、ゴランさんは少し、涙もろ過ぎますね)

 キースは、ゴランさんゆずりの茶髪と茶色の瞳の、少し大きな赤ちゃんである。

 さらに家族が増えたガイン家は、さらに多幸感に包まれていた。

 そして1週間後。予定通りに高等学校は開校した。

 この学校は、領主からの補助金はあるが、授業料がそれなりに高額だったためもあり、当初はそれほど希望者がいなかった。

 しかし、年度が進むにつれて、代数計算や関数、そして、図形の証明等、どんどんと高度になっていく内容を見た生徒達による噂のために、入学希望者が増えていった。

 開校から4年が経過する頃には、受け入れ可能な人数を超えるほど入学希望者が殺到したため、急遽、先生達と入学試験制度を設けて対応した。

 ガインの町の高等学校で教える内容が広まっていくにつれて、貴族達からの反発が再び始まった。

 2度目の手のひら返しであるが、もはや、我が家の家族はもちろん、町の住民も全員無視していた。

「貴族の誇りを理解できない、平民上がりの半端貴族はこれだから」

 等という事を、わざわざガインの町の領主館を訪れ、本人は嫌味だと思っている内容を直接言いに来る酔狂な貴族もいたが、そんなものは、蚊に刺されたほどにも感じなかった。

 むしろ、私の狙い通りに平民達が力を付けた証だと、自信を深めたほどである。

 また、私は校長として就任したため、学校内では先代様ではなく、校長先生と呼ぶように何度もお願いした。

 そして、授業内容の進捗の確認も兼ねて、時々、私が直接特別授業を行う事もあった。

「校長先生。今日の授業内容は何でしょうか?」

 生徒の一人の女学生が、好奇心で満たされた目で質問をしてくる。

「今日は、三角形の合同条件等を教えます。キカガクの内容ですね」

 ちなみに、この高等学校では特に年齢制限は設けていないため、様々な年代の生徒達が入学している。

(まるで、前世の夜間学校みたいですね)

 私はそんな感想を抱いていた。


 これは少し先の話になる。

 高等教育が始まった事から、ガインの町に行き、入試に合格して授業料が払えれば、お貴族様しか知らないはずの内容が習えるし、無一文で移住したとしても開墾の道具が無料で貸与され、当面の生活費も保証されると、平民達の間での評判がさらに上がった。

 学のない平民であっても、基本的な学問は無料で教えてくれるし、しばらくはタダで生活できるので、その間に金を貯めて勉強し、高等学校に入学すれば、立身出世も夢ではないと広く言われるようになった。

 そのため、ガイン家、特に高等学校の設立を主導した私への評価が、うなぎ上りになって行き、私は「学問の父」という、新たな二つ名をいただく事になるのであった。