先祖返りの町作り(再調整版)
第66話 メイの彼氏とインサツ工房
ネリアが生まれて、2年ほど経過した頃。
昨年、ローズさんはネリアと年子となる第二子を出産していた。エストにとっても、待望の跡継ぎとなる男の子だ。
その時、
「ぜひともこの子には、私の尊敬するおじい様から名前を与えて欲しいです。できれば、おじい様のような森の隠れ里の雰囲気のする名前をお願いしますね」
という、エストからの無茶ぶりに頭をかかえ、さんざん悩んだ挙句、私の「ヒデオ」のような名前という事で「シゲル」と命名した。
私はこの時ほど、自分のネーミングセンスのなさを呪った事はない。それでも、エストは大喜びだったので良しとする。
ゴランさんを理想の殿方へと変貌させるため教育も無事終了し、必死になって勉強していた彼の姿に私もすっかり情が移ってしまい、私の働きかけもあって、メイとゴランさんは今、お付き合いしている。
あまり素直ではないメイは、
「あなたはまだ、お試し期間中の彼氏よ?」
と、ゴランさんに念を押しているが、まんざらでもない様子に見える。
メイも既に18歳になっており、このまま順調にお付き合いを進め、お婿さんとして紹介してくれる時を、私は心待ちにしている。
エルクとルースも既に49歳になっており、仲良く年を取っていく二人を見るたびに、あの苦い初恋の思い出も、それを自ら振り切った私の判断も、間違ってはいなかったと強く感じている。
また、インクの専門工房も、無事に作られた。
まだ印刷事業がそこまでは拡大していないため、エルクに頼んで、領地の予算から補助金を出してもらって運営している。
私による、活版印刷技術の開発も無事終了し、算数と国語の参考書の印刷も始まっている。
驚きと共に受け入れられたこの新しい技術は、「インサツ」技術として発表された。
この形態は「カッパンインサツ」であると説明し、続けてさらに「ガリバンインサツ」も開発中とアナウンスしている。
また、グーテンベルクの印刷機の基本的な原理をインサツ工房の技術者に教え、彼らに新しい「インサツキ」の開発をまかせている。
そのための、高さを厳密にそろえた「キンゾクカツジ」を加工するための技術開発も、合わせて彼らに丸投げしている。
(詳しい構造を知らない私が研究しても、開発に必要な時間は変わらないでしょう)
という、判断によるものだ。
印刷技術の再現にある程度の目途が付いた私は、高等数学を教えるための先生を募集し、現在、教育中である。中学校卒業程度の学力を目指している。
またエルクと相談して、高等教育のための学校の建設計画も進んでいる。
この新しい学校は前世の高校のような扱いとし、領主からの補助金の予算は付けるが、基本的には、生徒達から徴収した授業料で運営する事が決まっている。
エルクが募集した平民の官僚達も育ち、彼らに仕事を任せられるようになったため、私とエストによる領主業務のお手伝いも、仕事量がかなり減った。