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先祖返りの町作り(再調整版)

第50話 二代目領主エルク

 それからさらに5年。私は35歳になったエルクに家督を譲り、領主を引退した。

 私は相談役となり、領主の業務の大半はエルクが引き継いだ。

 9歳になったエストは今、領民と共に学校で勉強している。

 私もエルク夫婦も平民上がりのため特に気にしてはいないが、一般的には、お貴族様と平民が一緒に学ぶのはありえないそうだ。

 ルースの生んだ第二子は女の子で、やはりルースによく似たかわいい顔をしている。

 メイと名付けられ、今4歳のかわいいさかりだ。この子はなぜか魔道具に興味があるようで、将来が楽しみだ。

 メイはあまり里の事には興味がないようだが、エストのペンダントをとてもうらやましがったので、

「今度の里帰りの時に作ってもらうので、それまで我慢してくれませんか?」

 と説得した。

 この村に来れば無料で読み書き計算が習えるという噂を聞き、住民が少し増えたが、農民用の畑の開墾がそれほどできていないため、あまり増えてはいない。

 私は領民に無駄に重い労役は課さなかったためだが、税が安くて暮らしやすいという評判にはなっていた。

 この5年で増えた住人で、最も特筆すべきは鍛冶屋だろう。

(魔道具制作のための鉄製品を、いちいちガルムの都市まで発注して輸送していたのでは、効率が悪いですよね)

 と考え、工房で稼いだ金を利用して鍛冶屋の施設ごと屋敷を建設し、ガルムの都市で募集して来てもらっていた。

 この村唯一の鍛冶屋では、私の発注品の他に農具の作成やメンテナンスができるようになり、少し生産性が上がったように思う。

 ちなみに、ガルムの都市での悪評が広まった後に領主として就任したため、気分転換に狩りに出かけた時は、遠慮なく魔法をぶっ放している。

 里にいた時のように、空を飛んでいる鳥を魔法で叩き落したりもする。

 10年たった今では村人ともそれなりに親しくなり、私が狩りに出かけるとめったに食べられない鳥肉が食えるという事で、私からのいわゆる「先代様のおすそわけ」がひそかな楽しみのようだ。

(鳥肉と言えば唐揚げですよね? がすこんろも作りましたし)

 という安直な発想なもと、唐揚げの再現を目指したが、これが思った以上に難航した。

 片栗粉のようなものがなかったため、イモからデンプンを抽出する所から始めた。

 試行錯誤を経て完成した唐揚げであるが、やはり、和風の料理が増えてくると、醤油と米が欲しい。

 醤油は味噌からでも作れるという程度の知識しかないため、再現はあきらめている。

 米については、

(サトウキビの栽培ができるほど温暖な地域であれば、水田くらいはあるはずです)

 と考え、傭兵時代にかなり頑張って探したが見つからなかった。

(せめて、野生の原種のイネでも見つかれば、100年かけてでも品種改良しますのに)

 そう思っているが、これはというものは未だに発見できていない。

 ちなみに、唐揚げには大量の食用油が必要なため、

「これこそが、お貴族様だけが食べられる、お貴族様の料理ですよ」

 と、家族には説明している。

(嘘は言っていないですよね? 他のお貴族様が食べていないだけで、価格の関係でウチのお貴族様限定料理ですから)

 ちなみに他には、みきさーの魔道具の利用方法として開発した、みーとすぱげってぃやはんばーぐが我が家の人気料理だ。