先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第174話 にとろ化合物
焚書が行われた報告を受けた私は、すぐに領主の執務室を飛び出し、その足でダイガクの研究室へと向かった。
部屋に到着した私は、早速、具体案の検討に入る。
愚かな貴族に鉄槌を下す意味でも、軍備の増強は急務になってくる。だが、常備軍であるガイン自由都市軍は、とても金食い虫の組織だ。
軍隊という組織はなくてはならないものなのだが、生産性という意味では皆無である。ただ消費をするだけの集団なので、経済的な負担を考えると、そう大規模には拡充できない。
「となると、質を上げるしかないわけですが……」
既に国一番の精鋭となっているガイン自由都市軍を、今以上に鍛え上げるのは、現実的ではない上に効率も悪い。
「やはり、新しい武器が必要ですね。えあがんよりも強力なやつが……」
しばらく顎に手を当てて考えを巡らせ、やがて結論に至った。
「どう考えても、『火薬』しかないでしょうね」
火薬があれば、単純に使ってもダイナマイトや手榴弾のようなものが作れるし、もっと開発を進めれば、やがて大砲も作れるようになるだろう。
榴弾砲と呼ばれる大砲を作れば、面制圧も可能になる。
つまり、榴弾砲を量産し、十分な数を揃えると、貴族軍のいるあたり一帯をまとめて薙ぎ払って更地にすることも容易だ。
焚書などという蛮行を臆面もなく実行できるような相手にかける慈悲など、私は砂粒ほども持ち合わせていない。
「『火薬』の歴史をたどるのであれば、『黒色火薬』から始めるべきなのでしょうが……」
残念なことに、私はその具体的な作り方をほとんど知らない。
しばらく考えを巡らせ、もっといい方法があることに思い至った。
「いっそのこと、『硝酸』を作って『ニトロ化合物』を作ってしまいましょう」
ニトロ化合物は、燃焼させると急激に体積が膨張する性質があるため、高性能火薬として広く利用されている。
有名なTNT火薬やニトログリセリンも、ニトロ化合物の一種である。
そして、それらは、硝酸さえあれば、比較的、容易に作成できるはずだ。
「ただ、この技術に関する情報は、欠片たりとも貴族たちには渡せませんから、法整備も必要になってきますね……」
現代の日本でも、硝酸の管理には厳しい手順が義務付けられている。
生産、保管、使用の各段階で数量を厳密に管理し、保管場所にも規定がある徹底ぶりである。
また、危険物取扱者の一級の免許がなければ、そもそも入手すらできなかったはずだ。
免許制度も含めた法整備を、早急に執り行う必要があるだろう。
私はこれらの下準備を順番に書き出してリストアップしていき、確実かつ入念に進めていくのであった。