先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第95話 ひ孫たちと里帰り
それから数日の間、旅を続け、今は私の里に到着していた。
「「これが、森の隠れ里……」」
ネリアとシゲルの姉弟が、かつてのエストと全く同じ発言をハモりながら口に出していた。
そんな私たちを近くで遊んでいた子供の一人が見つけ、近寄って来る。
「祭司様! おかえりなさいませ。今日のお土産は何ですか?」
早速お土産をねだるその子を見て、私は微笑みを浮かべながら、背嚢から袋を取り出して渡す。
「ただいま、アンジェ。今日のお土産は飴玉です。いつものように、また、みんなで分けて食べてくださいね」
満面の笑顔になって飴玉の袋を受け取ったアンジェは、元気にお礼を言ってから走り出した。
「ありがとうございます! 祭司様! では、みんなに知らせてきますね!」
そして、しばらく村の中を見物しながら歩き、祭司長の小屋へと到着した。
「祭司長様、祭司です。ただいま戻りました」
「おう、おかえり。ところで、そちらの二人はわしの玄孫かの?」
私は三度目のデジャブなシーンを想像していて身構えていたのだが、さすがに、祭司長も学習したようだ。
「ええ、そうです。ネリア、シゲル。ひいひいおばあ様に、挨拶をおねがいします」
私がそのように促すと、まずは姉のネリアが一歩前に出て自己紹介を始めた。
「初めまして、高祖母様。わたくしが高祖母様の玄孫のネリアと申します。以後、お見知りおきください」
ネリアが一歩下がり、続けてシゲルが同じように一歩前に出て自己紹介を始める。
「初めまして、ひいひいおばあ様。私が祭司長様の玄孫のシゲルです。よろしくお願いします」
二人の挨拶を受けた祭司長はとても嬉しそうな表情をしながら大きく頷き、こちらも自己紹介を始める。
「そうか、そうか。よくぞ、訪ねて参ってくれたの。わしがおぬしらのひいひいおばあちゃんじゃ。よろしくな」
三人の挨拶と自己紹介が一段落したようなので、私はここで、エストから頼まれていた内容を伝える。
「祭司長様、エストからの伝言です。これからエストの子孫たちには、代々、祭司長様の魔石のペンダントを渡してあげたいそうです。そして、私がこの里の魅力を子供の頃から教えますので、成人したら、その子孫たちがまた訪ねて来てくれるかもしれません」
それを聞いた祭司長は今日一番のいい笑顔になり、先走って暴走を始める。
「そうか! それは良い考えじゃな!! では、早速、魔石を作ろうぞ」
私はクスクスと笑いながら、祭司長を止める。
「祭司長様、まだ、シゲルは結婚もしていませんよ? 子供が生まれたら私が連絡しますので、その時に張り切って作ってください」
祭司長は少し顔を赤くしていて、暴走してしまったことを恥じているようだ。
「そ、それもそうじゃな……。ちと、嬉しすぎて先走ってしもうたわ」
そんな私たち母子のやりとりを見ていたネリアとシゲルの姉弟は、顔を見合わせてクスクスと笑っている。
その後、シゲルが私たちの顔を順番に見てから感想を述べる。
「ひいおじい様とひいひいおばあ様は、本当に仲がいいのですね」
ネリアも同意しながら感想を述べる。
「本当にそうですわね。なんだか息もぴったりで、長年連れ添った夫婦のようにも見えてしまいます」
それを聞いた祭司長は、顔を真っ赤にしながら必死に否定する。
「ふ、夫婦とな!! そのようなことはないぞ? で、あろう? 祭司よ」
なんだかその仕草がとても可愛らしく見えてしまって、私はつい、意地悪として幼少時代の秘密を暴露してしまう。
「実はですね、私は小さい頃に、将来は祭司長様をお嫁さんにもらおうと思っていた時期があるのですよ?」
それを聞いたシゲルが興味津々な様子になり、詳細を聞こうとする。
「それは初めて聞きました。では、それがひいおじい様の初恋ですか?」
私はそれに軽く頭を振って否定する。
「いえ、小さい子供ゆえの、母親を慕う上での若気の至りだと考えています。ですので、初恋としてはカウントしていませんね。私の初恋は、あなたたちのおばあ様であるルースでしたね」
すると、今度はネリアが興味津々な様子になり、詳細を聞こうとする。
「では、おじい様との三角関係だったのですね……。それはぜひとも、わたくしに詳細を教えてはいただけませんか?」
その話を始めると長くなりそうだったので、私は後日のお楽しみとすることを提案する。
「エストが知っているはずですので、その話はガインの町に帰ってからしましょう。ずっと立ち話も何ですから、そろそろ中に入りませんか?」
祭司長も大きく頷いて同意する。
「そうじゃな。そろそろ腹も減ったろう。ネリア、一緒に夕食を作らぬか?」
その提案を聞いたネリアは少し嬉しそうな顔になり、祭司長のお手伝いを申し出る。
「ええ、もちろんです。高祖母様と一緒に料理ができるなんて、わたくしは幸せものですわ」
「そうか、そうか。では、どのような料理が所望じゃ?」
ここで、シゲルが食いつき気味になってリクエストを始めた。
「では、ぜひとも、ひいひいおばあ様のはんばーぐが食べてみたいです!」
ネリアも頷いて同意を示す。
「そうですね。お父様が、あれは珍しい味付けで、とても美味しかったと自慢していましたからね」
そんな楽しい会話と食事を済ませ、その後、三日間の里帰りの予定を済ませた。
これは先の話になる。
エストのお願い通り、直系の子孫たちには祭司長のペンダントが送られるようになり、これがガイン家の一員の証として、代々大切にされるようになっていった。
そしてエストの狙い通りに、直系の子孫たちは、一度はご先祖様である祭司長を訪ねるのが慣例となっていった。
後に分家となった家では、ガイン家の分家の証として、それぞれの家の初代のペンダントが家宝として、代々、大切に受け継がれていくようになるのである。