先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第20話 ウチの里はチート
そして翌日。
私が起床した頃になると、アレンさんとアルスさんはもうとっくに活動を開始しており、馬車に穀物を積み込んでいた。
二人に聞いた話によると、この村で仕入れた穀物を王国で販売したとしても、それだけでは、ほとんど儲けにならないのだそうだ。それでも、帰り道の馬車を空荷にして移動するよりはマシなのだとか。
その馬車の周囲には、昨晩に寝室でちらっと見かけた人たちがいた。護衛の傭兵さんの四人組だ。武器として剣や槍を持っていて、魔術師や弓術師はいないようだ。
「魔物の領域とされる自由国境地帯を突っ切るのに、護衛がこんなに少なくて大丈夫なのですか? 囲まれてしまったらどうするのです?」
私がいつものようにアレンさんに質問してみると、群れで襲ってくるのは、どちらかというと弱い個体になるらしい。
魔物の領域の真っただ中を突っ切るような街道では、強い個体が単体で襲ってくる事が大半になるのだとか。
そのため、必要になるのは護衛の数ではなく、質になるそうだ。ここにいる傭兵さんたちは凄腕のようだ。
シユス村を出発した翌日、街道沿いに兎の魔物を発見した。
(晩御飯のおかずが一品増えますね)
そんな事を考えながら魔法の準備を始める。祭司長から実力を隠すようにと言われていたので、弓の射程の半分ぐらいまで我慢してから発動させた。
得意としている風刃の魔法がまっすぐに飛んでいき、獲物の首を綺麗に飛ばした。
小走りになって近づき、ホクホク顔で血抜きをしていると、なんだか驚いたような顔をしている傭兵さんたちが目に入った。
「どうかしたのですか?」
「ああ……。噂には聞いていたが、森アルクの魔法の腕は凄いんだなと思ってよ」
背中にかなり大きな剣を背負っている、一番ガタイのいい傭兵さんが答えてくれた。
移動している間は基本的に暇になるので、雑談がてら、傭兵さんたちに戦い方についていろいろと質問してみた。
そうすると、私の考えている弓の射程が、一般的にみればかなりおかしい事を指摘された。それぐらいの距離になると、矢は届くがめったに当たらなくなるのだとか。
魔法の射程についても指摘された。
攻撃魔法を使いこなすほどの魔術師であっても、射程はだいたい槍の二倍程度で、中距離から重たい一撃を加えるダメージディーラーになるのだとか。
(ウチの里は魔法だけでなく、弓もチートだったのですね……)
また、一般的には、生活魔法が使えるだけであれば、魔術師とは呼ばれないのだそうだ。
「あの村の村長の孫は、僻地で本物の魔術師を見た事がないから、自称しているだけだろう」
雑談の一環として、傭兵さんの一人が教えてくれた。
ちなみに、生活魔法というのは、火種を出したり、水を出したりと、生活をちょっとだけ便利にする魔法の総称らしい。
そのレベルの魔法式は平民の間で広く知られていて、無料で教え合っているのだとか。
魔法文字の発音さえできれば無料で魔法が使えるようになるため、一定の年齢を超えると、ほぼ全員がチャレンジしてみる。そのため、王国では、十人に一人ぐらいの割合で魔法が使える人がいる。
狩りで使えるような攻撃魔法を教わるためには、魔術師に金を払って伝授してもらう。この時、魔力制御の訓練方法も別料金で伝授してくれる。
この時の料金は有用な魔法になるほど高額で、大事な飯のタネになるので、秘匿されるのが普通だそうだ。
(ちょっと待ってください。それ、二日前に教えて欲しかったです)
土壁の魔法は初級で防御魔法になるので、無料で教えてしまっても問題ないのかもしれない。だが、魔力制御の訓練方法まで無料で教えてしまったのはヤバそうだ。
(業界の価格破壊が起こらなければいいのですが……)
ここまで、ちょっと雑談をしてみただけでも、自分はかなりの世間知らずであると思い知らされてしまう。
(常識の違いを埋めるのは、なかなか大変そうですね)
私はそんな感想を抱きながらも旅を続け、初めての都市への旅は終わりを告げた。