先祖返りの町作り
第188話 ぱらしゅーと
それから、また2年の時が過ぎ去った頃。
ヘレナさんは第一子となる男の子を出産していた。
ヨシツネにとっても、待望の跡継ぎの誕生である。
金の髪に青い瞳をした、
元気に泣き叫ぶ活発そうな赤ちゃんだ。
一族の伝統に則り、私がユキムラと命名した。
源義経からの名将繋がりという事で、
真田幸村から名前をいただいた。
また、この頃の私はあるものを開発していた。
これをしようと思い付いたのは、
何気なく、
イジェクト改Ⅱの魔法式を眺めていた時の事だ。
「『イジェクト改Ⅱ』に統合してしまっている、
『エアクッション』の魔法を分離すれば、
高い所から落ちても大丈夫なのでは?」
そう、気付いたのだ。
ただ、今のままでは、
落下方向に正確に展開するのは困難なので、
全身を覆うように改良する必要はある。
しかし、それさえ行えば、
ある程度の衝撃は吸収できるはずだ。
「よし。ここはいっそのこと、
『パラシュート』を開発してみますか」
蒸気機関の開発という、
大きな仕事が完了した私は、
ここで趣味の研究を始めてみる事にした。
落下の衝撃が緩和できるようになれば、
パラシュートの実験もできるようになるだろう。
しかし、パラシュートは原理こそ単純であるが、
実際に使うとなると、
こまごまとした所の開発に、
時間がかかると思われる。
パラシュートの畳み方一つをとっても、
手順通り正確に畳まなければ、
使用時に絡まる等して、
きちんと開かない可能性がある。
よって、自分で実験するにしても、
いきなりは危険過ぎるだろう。
そこで、まずは体重と同じくらいの、
重りを使っての実験を始めた。
飛び降り台のような櫓を作り、
そこからパラシュートを付けた重りを落下させる。
この実験を繰り返し、成熟してきた頃に、
自分で飛び降りるための下準備を始めた。
いくら魔法があるとはいっても、
何もない地面に向かって落下するのは危険過ぎる。
そこで、内部に空気を含んだエアマットレスを、
開発した。
エアクッションと命名しなかったのは、
魔法と同じ名称になる事を避けたためである。
まずは低い位置から始め、
少しずつ改良を加えながら高さを増してゆく。
何度も高い場所から飛び降り始めた私を見て、
家族は心配し、他のものは、
「いったい何をしているのだろうか?」
と、いぶかしんだ。
「新しい技術の開発をしています」
と、説明したため、
「それなら、
私達に理解できなくてもしょうがない」
といった反応をされていた。
実験は時に失敗もして、
打撲傷を負う事もあったが、
おおむね順調に開発は進んだ。
そして最近になって、
「ぱらしゅーと」が完成していた。
「次はこのぱらしゅーとの、
有効利用を考えないといけませんね」
私はそうぶつぶやき、
新たな研究課題を考え始めた。