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先祖返りの町作り

第168話 デンキジドウシャ

ダイガクで様々な発明が成され、
それが実用化されている現状を考えて、
私は自分の研究分野を、この都市の発展に、
直結するようなものにする事にした。

ダイガクの自分の研究室で一人、
研究内容についての思索を続ける。

「現状で、
 ガイン自由都市の発展の妨げになっていそうな、
 問題点は何ですかね……」

これについては、すぐに答えが浮かんだ。

「やはり、原油の輸送が一番の問題ですね」

あすふぁるとの道路を施設したため、
物流事情は大幅に改善している。

しかし、それ以上に原油の需要が伸びているため、
そろそろ馬車で運んでいたのでは、
供給がひっ迫する恐れが出始めていた。

「そうなると、『自動車』ですかね?」

理想を言えば機関車を作って、列車輸送をしたい。

しかし、いきなり大型の輸送機械を作るためには、
超えなくてはならない技術的なハードルが、
高くそびえたっている。

そこで、
自動車を作ってトラック輸送ができないかと、
思考を進めてみる。

「『エンジン』については、
 理想は『ガソリンエンジン』や、
 『ディーゼルエンジン』等の、
 『内燃機関』なのですが……」

内燃機関と呼ばれるエンジンを作るためには、
かなり高度な加工技術が要求される。

やっと旋盤が実用化されたぐらいの技術水準では、
まだまだ無理だろうと判断を下す。

「と、なると、
 部品点数の少ない『電気自動車』ですかね?」

モーターを利用した電気自動車では、
いろいろと部品を省略できる事もあって、
工作難易度がぐっと下がる。

電動モーターを利用した、
本物の電気自動車は無理でも、
魔道具のモーターを利用すればいける気がする。

私はこの方向で、実現可能なものの考えを進める。

「一番の問題は、
 『トランスミッション』でしょうね。

 かなり簡略化できるとは言え、
 それでも工作難易度は高くなるはずです」

トランスミッションは、
ギアチェンジに使われる部品である。

近年ではAT車が主流のため、
意識する事は少なくなっているが、
あれは自動でギアチェンジしているだけで、
トランスミッションがなくなった訳ではない。

そして電気自動車では、変速ギアが省略できる。

一応、高級モデルになると、
2段や3段変速のものもあるが、
一般的には1速だけで充分である。

しかし、自動車の形状を取る以上、
バックギアだけはどうしても必要になる。

「いっその事、『モーター』に直結しますか」

後輪を駆動輪として、
左右の車輪に魔道具のモーターを直結すれば、
部品点数を大幅に減らせる。

バックする時は、
モーターを逆回転すれば良いはずだ。

また、車輪の軸受け部分には、
発電所の開発時に作ったボールベアリングが、
そのまま応用できる。

「他に開発が難航しそうなものは、
 『サスペンション』と、
 『ゴムタイヤ』ですかね?」

サスペンションとは、
衝撃を吸収するための部品である。

これに使われるダンパーと呼ばれる部品の作成が、
少し難易度が高いと思われるが、
内燃機関のエンジンや、
トランスミッションと比較すれば、
そこまで難しいとも思えない。

ゴムタイヤについては、どうにもならない。

天然ゴムの木でも見つかれば良いが、
そうでない以上、代用品でなんとかするしかない。

鉄製のホイールの周りに、
ゴムの代用品を薄く塗りつけるぐらいしか、
方法がないと思われる。

「他に重要そうな部品は……」

何か見落としがないか、
もう一度考えをまとめてみる。

「あ! 『ブレーキ』を忘れる所でした」

当然ながら、自動車にはブレーキが必須である。

これについては、油圧式のものを用意すれば、
そこまで工作難易度が高いとも思えない。

「ふむ……。少し長めの研究になりそうですが、
 なんとかなりそうですね」

いくつかの新技術の開発が必要そうではあるが、
現在の工作技術でも作れそうだと判断を下す。

「では、早速研究開始です!」

私はさらに発展したガイン自由都市を、
思い浮かべながら、
張り切って研究を開始したのであった。