先祖返りの町作り
第164話 イサミのお嫁さん
私の赤面ものの大暴走劇が終幕して、
季節がやっと一巡した頃。
あの話題が出るたびに、
私は羞恥心で身もだえしていたが、
ようやく噂も沈静化し始めていた。
そしてこの頃、イサミは結婚式を挙げていた。
イサミはその勇ましい名前の由来にも関わらず、
読書を愛する物静かな好青年に成長していた。
「私が本好きなのは、
間違いなく大おじい様の影響ですよ?」
等という、とてもかわいい事を言ってくれている。
(この子も、
天才な上にかわいさでもこれほどですか)
はい。やっぱり私が大じじバカです。
イサミは小さい頃から、私の所へと、
頻繁に話をせがみに来てくれていたため、
ついついかわいがり過ぎてしまい、
本をたくさん与えていた。
そのため、イサミのこの発言は事実だろうなと、
私も認識している。
私は本のジャンルを問わずに読むのだが、
この点でもイサミは影響を受けたようで、
どんな本でも買い込んで読みふけっていた。
ちなみにこの都市には、
私の名前を冠した公立図書館がある。
平民の知識レベルを上げるには、
図書館は必須だろうと考えた、
私が主導して設立したのであるが、
油断していると、
いつの間にか私の名前の図書館になっていた。
この図書館、
正式名称を「ガイン公立ヒデオ図書館」と、
いうのであるが、
皆短縮して「ヒデオ図書館」と呼んでいる。
「恥ずかしいので別の名前にしてください」
と、私は何度もお願いしたのだが、
「記念すべき最初の図書館に、
本の父の名前を使わなくてどうするのですか?」
と、周囲に押し切られてしまっていた。
イサミはこのヒデオ図書館がお気に入りの場所で、
暇さえあれば入りびたるようになっていた。
イサミはその読書量に比例して、
非常に豊富な知識量を誇っていたが、
その分、体を動かすのは苦手な優男でもあった。
しかし、それがかえって貴族っぽくていいと、
女性に非常にモテていたようだ。
そんなイサミが生涯の伴侶として選んだのは、
図書館でたびたび会っていた、
読書仲間の女性であった。
リリアさんという人で、淡い色の金髪に青い瞳で、
どこか母性を感じさせる、
優しい雰囲気の知性溢れる女性である。
イサミと正式にお付き合いを始めた頃は、
それに嫉妬した一部の女性陣からは、
「華やかさの欠片もないので、
お貴族様の跡取り息子の恋人には、
ふさわしくない」
等と、陰口をたたかれていたようだ。
しかし私はどちらかというと、
華やかな美女よりは、
少し控えめな美人の方がより安心できる気がして、
生涯を共にするならそちらだろうと思っていた。
そのため、
二人が結婚を視野に入れ始めたと聞いた時は、
さすが私のかわいいイサミは、
女性を見る目も確かだと、
周囲に自慢したほどである。
そのまま昨年正式に婚約し、
最近無事に夫婦となっていた。
私とクリスさんのように、
人前でイチャつくような事こそなかったが、
いかにも自然体という雰囲気で、
寄り添い合う二人は、
やがて領民達からも、
理想の夫婦としてもてはやされるように、
なっていくのであった。