先祖返りの町作り
第147話 100周年記念祭
それから2年の月日が流れた。
私は159歳になっていた。
長命な森アルク族でも、
老人と言われる年齢に達していた。
そのため、里の同年代の幼馴染達の中にも、
ちらほらと、旅立ったものが現れ始めていた。
(いよいよ、私一人だけが、
時に取り残される事が、
確定してしまいますね)
私はそう思い、
その寂しさに恐れおののいたが、
すぐに頭を振って否定する。
(いえ。決して私一人ではありません。
クリスさんも祭司長様も、
私と同じ孤独に、私よりも長い間、
ずっと耐え忍んでいます)
本当の意味で私一人だけであったならば、
もしかすると、私の心はあまりの寂しさに、
耐え切れなくなっていたかもしれない。
(私はもっと、
彼女達に感謝すべきでしょうね)
そう、強く感じていた。
そして、私が領主として就任したのが、
59歳の時。
つまり、今年でちょうど100周年である。
その事に官僚の一人が気付いた時、
ガイン家とその領地の100周年を記念して、
大規模な祭りが開催される事が決定していた。
そして、今日。
その祭りの開催日である。
開幕の挨拶を、初代である私に託されたため、
拡声の魔道具に、静かに語り掛け始める。
「私がこの領地へ赴任してきた時、
ここは小さなガイン村でした」
そんな出だしで演説を始め、
反応を確認しながら、言葉を繰り出してゆく。
「それからの100年は、
私にとって、あっという間でした。
そして幸いな事に、
私は数多くのご縁に恵まれました。
この100年間に、私は、
かけがえのない、
多くの人々と出会う事が出来たのです」
エルクやルースをはじめとした、
たくさんの過ぎ去って行った人々の顔が、
次々と思い浮かぶ。
「しかし、時の流れは残酷です。
そのほとんどが、
私を置いて旅立ってしまいました」
私は少し天を見上げ、それから、
今を生きる人々に視線を移す。
「その人達が愛したこの地は、
今を生きる人達によって、
受け継がれています。
そして、かつてのガイン村は、
やがて町になり、都市となり、今では、
大都市と呼ばれるほどになりました」
そして私は、多くの人々に感謝をささげる。
「この地に住まい、この地を愛した、
様々な人々の思いが、
この領地を、平民の首都と呼ばれるほど、
大きく発展させたのです。
私一人では、
ここまでの発展はとても無理でした。
この地に暮らした、全ての人々に、
深い感謝の念をささげます」
私は少しの間だけ黙とうし、感謝をささげた。
「私を含め、人はやがて死に、天へと帰ります。
まあ、私はちょっとばかり長生きしますが、
いずれは天へと向かいます」
少し冗談めかしてそう述べると、
若干の笑い声が聞こえた。
私はそれに微笑みを返しながら、続きを語る。
「しかし、この地を愛する思いは、
親から子へ、そして孫へと、
代々変わる事なく、
脈々と受け継がれています。
私は神様に与えていただいた、
この長い長い寿命を使って、
これから先もずっと、それらの様子を、
見守ってゆきたいと思います」
そして私は、一番語り掛けたかった事を、
ここで述べる。
「私の長い旅路が、
いつ終わるのかは分かりません。
しかし、皆さんのおかげで、
とても楽しい旅になる事だけは、
既に確定しています。
本当にありがとうございます」
そして私は締めの言葉を述べ、演説を終える。
「せっかくのお祭りですから、
あまり長い演説も野暮でしょう。
ですので、このくらいにしますね。
皆さん、今日という日を、
存分に楽しんでください」
そして、私は用意していたグラスを掲げ、
開幕の宣言に代えて、乾杯の音頭を取る。
「私達の愛する、このガイン自由都市に、
乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
こうして、5日間にわたる、
大規模な100周年記念祭が開催された。
その様子を少し眺めてみれば、
誰も彼も笑顔で、
祭りを楽しんでいる事が分かる。
私はこの数多の笑顔を、
私の力の及ぶ限り、ずっと守ってゆきたい。
そう、決意を新たにした日であった。