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先祖返りの町作り

第142話 新たな開発目標

原油の発見から5年が過ぎた。
未だにあすふぁるとは完成していない。

3種類の油の分離は比較的簡単にできたが、
そこから、
重油とあすふぁるとの原料に分離する事が、
どうしても上手くいかなかったのだ。

ダイガクの研究者達と一緒になって、
試行錯誤を続けたが、
これはという成果はまだ出ていない。

研究の行き詰まりを感じた私は、
ヒデオ工房の工房長の部屋で、
何か突破口がないかと、
一人思索にふけっていた。

「そういえば、原油の『分留』は、
 『常圧蒸留』と『減圧蒸留』の組み合わせだ、
 という話を、どこかで聞きましたね」

前世の記憶を思い出していた時、
ふと、独り言ちていた。

「それです! 『減圧蒸留』です!!」

現在行っている分留は、一気圧下での蒸留、
つまり、常圧蒸留である。

大気圧下での分離が難しい成分については、
気圧を下げる事により、
沸点を下げて分留するはずだ。

つまり、減圧蒸留である。

気圧を下げる減圧機を作った事はないが、
気圧を上げるこんぷれっさーの魔道具は、
レイゾウコの魔道具で既に作っている。

原理的に同じ構造で作れるはずだ。

「そうと分かれば、早速試作です!」

善は急げとばかりに、私は、
ゲンアツキの魔道具の試作に取り掛かった。

手がかりさえ掴めたら、後は早かった。

それから2年ほどが経過する頃には、
基礎研究がほぼ完了していた。

現在は、ダイガクの敷地内部に、
試験的なあすふぁるとの道路を設置し、
効率的な施設器具の開発や、
耐久度のテストを行っている。

いずれは、この領地内部の主要道路や、
セネブ村までの道も舗装したい。

特にセネブ村までの道の舗装は急務である。

というのも、
原油の輸送が大量には行えないため、
現段階であまり長い道は、
舗装できないためである。

ただ、いきなりあすふぁるとの街道を、
施設するのは、いろいろと無理がある。

そこで、まずは測量を行って、
セネブ村までの石畳の街道を建設予定である。

そうやって原油の輸送量が増加した後に、
街道や主要道路の舗装を行う予定だ。

また、あすふぁるとの副産物として、
各種の油の有効活用も考えなくてはならない。

このうち灯油の活用法としては、
ランプ用の油としての販売と共に、
石油ストーブの開発も既に行っている。

電動のファンヒーターは無理でも、
昭和の時代の手回し式のものであれば、
作れるはずだ。

灯油を染み込ませた芯に火を点け、
それをダイヤルで伸び縮みさせて火力調整する、
昔ながらの石油ストーブが目標である。

また、ガソリン等の残った油は、
当面の間は焼却処分するしかない。

しかし、ただ燃やすだけではもったいないので、
火力発電の基礎研究も、
開始する必要があるだろう。

扱いやすいのは直流電流であるが、
これは送電距離の影響をモロに受けてしまう。

そのため、将来を見据え、
送電のしやすい交流発電機を開発する事にした。

ただ、この場合は、
交流を直流に変換する回路も必要になる。

これには、コンデンサとダイオードが必要である。

コンデンサは比較的簡単に作れるが、
ダイオードが問題だ。

そのためには半導体を作る必要があり、
その材料として、
高純度のシリコンかゲルマニウムの結晶が、
必要になる。

現代の地球では、
主にシリコンの半導体が使われている。

これは、原料の調達が容易であるためだ。

極端な話、その辺りの石ころを拾ってくれば、
シリコンは調達できるのである。

ただ、シリコンは高純度の結晶を作るのが難しい。

そのため、比較的作成難易度の低い、
ゲルマニウムの結晶作りの研究から、
開始しなくてはならない。

「またしても、開発目標を欲張り過ぎですね。
 一歩ずつ、しかし着実に進めていきましょう」

ガイン自由都市のさらなる発展に、
確かな手ごたえを感じ、私は日々、
研究と開発に邁進する。