先祖返りの町作り
第138話 五代目領主カズシゲ
それからしばらくが経過した。
クリスさんをいつまでもここに置いておくと、
島の生活に支障が出るであろうと判断し、
なんとか説得して送り届ける事にした。
私が直接島の里まで送る事で、
どうにか了承してもらえた。
ちなみに、クリスさんによると、
島の儀式は、
先祖返りがいない時代の慣例に則り、
最長老が代行しているらしい。
クリスさんにある程度まとまった金額を渡し、
道中で実際に使ってもらって、
お金の扱い方を学んでもらった。
なんと、私の領地に来るまでは、
野宿しながらだったそうだ。
クリスさんほどの美女が一人で野宿していて、
よく盗賊等に襲われなかったものだと、
ひどく恐ろしくなった。
そのため、乗合馬車の利用方法や、
宿屋の宿泊方法等も、合わせて説明し、
私に会いたくなった時は、
このお金を使って来るようにと、
重ねてお願いした。
そうやって、無事に島の里まで到着した。
私はすぐに引き返すつもりであったが、
里の皆に引き留められたため、
数日だけ滞在を決めた。
帰還の日、
クリスさんはとても寂しそうであったが、
渡したお金を使って、
いつでも遊びに来てくださいと伝えると、
笑顔で送り出してくれた。
それからは、私が島の里を訪問するのではなく、
ふらりとやって来たクリスさんを、
私が出迎え、
しばらくしてから島の里に送り届けるという、
パターンが定着していった。
そうして、ガイン自由都市まで戻ってくると、
シゲルとカズシゲが待ち構えていた。
なんでも、領主の交代をするつもりであったが、
初代である私の前で引き継ぎを行うのが、
一族の慣例として定着していたようだ。
シゲルが、かつてのエルクが伝えた、
懐かしい言葉を再び、
次代のカズシゲへと引き継いでいく。
「いいかい。カズシゲ。
ふんぞり返っているだけの、
貴族達の言葉には、
耳を貸さなくても良いけれど、
税金を納めてくれる、領民達の声には、
良く耳を傾けるようにしなさい」
カズシゲは大きく頷いて、了承する。
「はい。お父様」
「そして、なにか困った事があれば、
大おじい様に相談するようにしなさい」
「お父様。それも一族の家訓ですか?」
「もちろん。これは、お前のひいおじい様が、
おじい様に引き継ぐ時からずっと、
語り継がれている内容だよ」
「そうなのですか? 大おじい様」
私は苦笑気味に肯定する。
「そうですね。二代目領主のエルクから、
三代目領主のエストへと引き継ぐ時に、
そう言われました」
そうすると、カズシゲは笑顔で頷き、
抱負を語る。
「では、私も一族の伝統に則り、
大おじい様を頼りにしますね。
そして、私の代でも、この平民の首都を、
さらに発展させてゆきたいと思います」
こうやって、シゲルは隠居生活を始め、
カズシゲが五代目領主に就任した。