先祖返りの町作り
第119話 えあがん
シゲルが新領主になって、
1年ほどが経過した頃。
ガイン自由都市軍は、
カント将軍による苛烈な訓練に耐え抜き、
かなり精強な軍団に変貌を遂げていた。
私は、そんな彼らをさらに強くできないかと、
思索を続けるようになっていた。
そうやって、しばらく考えた後、
思い切って銃を開発する事を決意した。
私は無意識の内に、
前世の知識を武器に転用する事を、
避けていた。
しかし、あちらから仕掛けてきた以上、
遠慮も手加減も一切無用と判断した。
最初に手を付けたのは、石弾という、
石のつぶてを発射する魔法を用いた、
魔道具開発である。
そのまま使えるとは、
最初から考えていなかったが、
作ってみると、やはり、
弾速が遅すぎて使い物にならなかった。
(やはり、魔道具形式の魔法制御力では、
この辺りが限界ですか)
そう考えた私は、
魔法制御力に頼らない方式を、考え始めた。
(一番良いのは、火薬を開発して、
鉛玉を発射する本物の銃を開発する事ですが、
技術的に超えなくてはならない、
ハードルが高すぎます)
しばらく悩んだが、
前世のおもちゃの銃を思い出した時、
突破口が見えた。
それは、以下のようなものである。
第一段階として、風魔法を発動させ、
銃身後部に圧縮空気を生成する。
第二段階として、圧縮空気の前方に、
石弾の魔法で弾丸を形成する。
この時、弾丸は前世の銃弾の形にする。
研究は必要だろうが、この程度であれば、
魔道具形式の魔法制御力でも、
問題なく作れると判断している。
第三段階として、圧縮空気を開放し、
弾丸を発射する。
つまりは、強力なエアガンである。
この方式であれば、構造も単純化できるので、
工作難易度は、それほど高くないと思われる。
しかし、命中精度を上げるために、
銃身内部にライフリングと呼ばれる、
渦巻き状の溝を作る所だけは、
こだわることにした。
こうすることによって、
弾丸が進行方向に対して垂直に高速回転し、
直進性が増すのである。
これは、ジャイロ効果と呼ばれる原理である。
「ただ、この新兵器の技術は、
絶対に貴族達に渡すわけには、
いきませんから、
私一人で開発、生産する必要がありますね」
思わず独り言が漏れるほど、
思考に没頭していたようだ。
それから試行錯誤をしばらく続け、
ガイン自由都市軍に配備が始まったのは、
それから1年ほどたった頃だった。
完成した「えあがん」は、
拳銃ほどは小型化できなかったが、
少し重いアサルトライフル程度には収まった。
火薬を用いていないため、
発砲時に炸裂音はせず、
シュッと音がするだけであり、
反動も少ない、扱いやすい銃になっていた。
そして、魔道具形式であるため、
引き金を引いている間は、
ループ文で繰り返し発砲する、
フルオート機能にも対応している。
また、石弾の魔法で弾丸を形成しているため、
前世の銃のように弾を補充する必要がなく、
魔石の魔力が続く限り、
連射が可能になっていた。
さらに、ご禁制の魔石を、
全てのえあがんに搭載する事によって、
かなり長い間、
連射が可能になっていた。
ただ、石の弾丸であるため、
鉛の弾丸ほどの貫通力はなくなっていたが、
そこは、弾幕でカバーするしかないと、
判断している。
「これは、また、
ものすごい武器を作られましたな」
カント将軍が、うなりながら、
この新兵器の試射の様子を眺めていた。
そんな彼に、私は注意点を確認する。
「しかし、だからこそ、
貴族達の手に渡ってしまうと、
こちらの被害が甚大になってしまいます。
打合せ通り、えあがんの管理は、
くれぐれも厳重にお願いしますね」
そうやって、訓練の前と後で、
えあがんの個数を数える等、
管理の徹底がなされたが、
その理由をきちんと説明していたため、
兵士達も真面目に守ってくれているようだ。
(これで、時が来れば、
いつでも貴族軍を蹴散らせますね)
私は、ガイン自由都市軍が、
さらに強くなった事を確信した。
そして、きたるべき日が、
少しでも早く来るようにと、
平民の学力レベルをさらに上げる方法を、
考えるようになっていった。