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先祖返りの町作り

第115話 農業の保護

街壁の建設のための増税が決定されてから、
しばらくが経過した頃。

私は、次の領地の運営会議の場で、
新たな提案を行う事にした。

「私は、
 農業に補助金を出して、作物の増産を行い、
 それを食料の備蓄に回す事を、
 議題として提案します」

それを聞いたエストが、
真っ先に反対意見を述べる。

「しかし、それでは、
 おじい様が常々主張しておられる、
 競争原理に反する事態に、
 なりはしませんか?」

「もちろん、反しますよ」

「では、分かった上で、
 やらねばならない理由が、
 あるという事ですね?」

私は一つ頷いて、その理由を語る。

「この都市は、急激に大きくなり過ぎました。
 そのため、食料の増産が間に合わず、
 食料自給率は、年々下がる一方です」

ここで、官僚の一人が反対意見を述べる。

「ですが、他ならぬ初代様の提案で、
 入街税の導入を廃止したのです。

 今まで通り、他の領地から、
 輸入すれば良いのではありませんか?」

「平時であれば、それで構わないと思います。
 ですが、考えてみてください。

 貴族達と戦争になった時、
 この領地の食糧を、
 他の領地からの輸入に頼っていれば、
 ガイン自由都市は、
 兵糧攻めにあう危険性があります」

私はゆっくりと皆を見渡す。

その危険性に、
初めて気付いたものも多かったようで、
皆真剣に考え込んでいる。

「食料備蓄だけを拡大するのでは、
 問題があるのでしょうか?」

私は再び頷き、その理由を語る。

「ある程度の短期決戦が見込めるなら、
 それでも良いでしょう。

 ですが、最初から、
 それしか想定していなければ、
 いざ長期戦になった時に戦えません。

 せめて、他の領地を占領下に加え、
 食料が確保できるようになるまでの、
 長期戦ができるだけの備えを、
 しておかなくてはなりません」

ここで、レオンさんが、
現実的な意見を述べる。

「ですが、初代様。
 いきなり食料自給率を100%にするのは、
 不可能ではありませんか?」

「もちろん、その通りです。
 ですが、100%にする必要はありません。

 他の領地の穀倉地帯なり、
 備蓄食料なりが奪取できるまでの、
 継戦能力が確保できれば、
 それで良いのです」

この会議の内容を聞いていた、
領主のエストが、決定を下す。

「必要性は理解しました。
 ですが、今すぐには予算が足りません。

 ですので、来年度の増税に合わせて、
 補助金と食料備蓄の予算を、
 捻出する事とします」

こうして、きたるべき戦いへの備えが、
一歩ずつではあるが、
着実に行われていった。