先祖返りの町作り
第37話 傭兵
ガルムの都市の中では、
一番大きな傭兵団の一員となったが、
これが思った以上に仕事が少ない。
この傭兵団にしたのは、
周辺住民のウケが一番良かったからだ。
傭兵にしては規律のしっかりした所、
という評判だった。
傭兵の基本業務は、魔物の間引きであるが、
全員が一度に出撃という事はなくて、
交代制である。
「なぜ、これほど人数がいるのですか?」
と周囲に質問したら、
魔物の氾濫に対処するためらしい。
魔物の氾濫というのは、
魔物の領域でたまに起こる魔物の大移動が、
たまたま人里方向に向かった時に、
呼ばれる現象だ。
魔物の大移動というのは、読んで字のごとく、
魔物の領域の魔物が、
突如集団で移動する事である。
森の奥深くに割って入るような、
凄腕の傭兵達がまれにみる現象で、
これを見たら、ベテランの傭兵でも避難する。
ただ救いなのは、大群が移動するが、
我を忘れて走って移動、という訳ではなく、
普通に歩いて移動するため、
見かけてからでも、余裕で逃げ切れる。
これが人里に向かった時には、迎撃するため、
都市にはしっかりとした街壁があるし、
傭兵もそれなりの数が常備されている。
原因については諸説ある。
「魔物の領域の奥深くで、
非常に強力な個体が発生し、
それが周囲の魔物を押しのけたからだ」
とか、
「蜂の巣分けのような現象だろう」
とか、いろいろ言われているが、
人跡未踏の魔物の領域の奥深くの事なので、
真相は誰にも分からない。
きちんと魔物を間引いて管理していても、
避けられないらしい。
そんな訳で、
人数の割には仕事の少ない傭兵達は、
雇われて警備兵のような仕事をしたり、
移動する商人の護衛をしたりする。
ちなみにこの警備兵、
ルツ工房でも常時雇用している。
最初の頃は、
私が悪質なクレーマーを追い返していたが、
だんだんと目が行き届かなくなっていったので、
警備兵を雇うようになった。
傭兵稼業は暇が多い自由業で、
思った以上に快適だった。
自由気ままに狩りをし、
時に雇われて旅をする。
そんな生活を2年ほど続けたある日、
私は国の境界線にほど近い道を、
北東部にある、
マルトという都市に向けて移動中だ。
私は祭司長の言いつけを守り、
本当の実力を隠し続けているが、
私が凄腕の魔導士な事は、
都市ではそれなりに知られているので、
過剰に隠してもすぐにボロが出ると判断し、
(これくらいは問題ないですかね?)
と思われる程度には、実力を開示していた。
それでも周囲から見ると、
比べるべくもないほど強力で、
私は、
「遠距離から戦い始めたら、団長でも負ける」
と団員に言われるほどの、
トップクラスの実力者として、認識されていた。
その団長による強い推薦で、
私は既に分隊長になっていた。
いくら私が強いとは言っても、
これは異例の出世であったが、
「こいつは後ろから、いくらでも攻撃できる。
前線から離れていても、魔物の数を減らせるし、
無詠唱だから、
指示を出しながら片手間でも攻撃できる。
指揮官向きだ」
という、団長による鶴の一声で、
分隊長に就任したばかりだ。
団長は、
「ヒデオは、次期団長だ」
と吹聴して回るので、少し困っている。
ゴリマッチョの多い傭兵団で、私は一番華奢だ。
そんな私が、
強面のおにいさん達のトップになるのは、
できれば勘弁して欲しい。