SOLID STATE ANGEL ver.1.1
第60話 ウォルターの横顔
「なあ、ウォルター。お前はどっちに賭けるんだい?」
陽気な様子で俺にそう語り掛けているのは、死神殺しの部隊で一番明るいと評判のカールだ。
こいつは、宴会になるといつも幹事を引き受ける、お祭り好きとしても有名なヤツだ。
「何の話だ?」
俺は思い当たる話を知らなかったので、素直に問いかけた。
「なんだ、知らなかったのか?」
そう言って、仕方ないなーと言いながら、妙にニヤけた様子で続きを語るカール。
「俺たち死神殺しの部隊で、今一番ホットな話題と言えばなんだい?」
「そりゃあ、我らが中隊長、ジェフにやっとやって来た春と嵐、セシィとセシルとの三角関係じゃないか。……ま、見ている分には面白いけどな」
俺は迷わずに即答した。
「だよな。見ているだけでも面白いんだが、それをもっと盛り上げてやろうって話なんだよ」
そう言ってさらにニヤけだすカール。
「なんだよ。もったいぶらずに答えを教えてくれよ」
「ああ、スマン、スマン。そう睨むなよ。だから……、さ。その二人のうち、どっちが中隊長をものにするかって賭けをやっているんだよ」
なるほどなと俺は思う。お祭り好きなカールからすれば、さぞかし面白いことだろう。だから、こいつが賭けの胴元をやっているって寸法か。
「そうかい。で、今の予想はどうなっているんだい?」
みんながどう考えているのかが知りたくて、俺はそう質問していた。
それに対し、カールは少し真面目な顔になりながら、返答してくれる。
「それなんだがよ……。恋愛の大先生、ブライアンの予想によると、意外にもセシル有利なんだと」
「そうなのか?」
今までのジェフとセシィのべったりぶりは目に余るぐらいだったので、その予想はかなり意外だ。
「ああ。中隊長はさ、あそこまでいつも一緒にいるセシィと、手も繋いだことがないぐらいウブだったろう?」
「そうだな」
「で、そのセシィのガードをものともせずに突破して、セシルは思いを伝えてしまった。それに一度応じてしまった我らが中隊長は、それを反故にできるほどの恋愛の手管を持ち合わせていないだろう……って、予想らしいよ?」
「へぇ……」
俺はしばらく考えを巡らせる。
悪い予想ではないんだけどな……。
今までのセシィの無意識ガードが鉄壁すぎたため、ジェフは女心を全く理解していない。その上、自己評価がすこぶる低い。そのため、自分の魅力に全く気付いていない。
自分が女性に全くモテないと勘違いしているアイツは、初めてできた彼女に舞い上がっているように見えるのは確かだ。
そして、ウブを通り越して、お前は子供か! と、言いたくなるほどの惨状のジェフの態度を見ていれば、このままセシルが先行逃げ切りでゴールしてもおかしくはない。
だが……、と思う。
ジェフのウブさは筋金入りだ。ちょっとやそっとでは改善するはずがない。
確かに、セシルの思いに応えてしまった以上、それをすげなくふることは、もうできないだろう。
それでも、自分が思い続けたセシィが、実は自分をずっと思い続けてくれていたと気づいたら、こちらもやはり、すげなくふることは不可能なはずだ。
その結果、女性にとって最悪の選択をしてしまうだろうな。
結論の出た俺は、賭けに参加することをカールに告げる。
「よし、分かった。俺は大穴に賭けることにするよ」
「おっ。じゃあ、セシィか?」
「いやいや。それだと対抗であって大穴じゃないだろう?」
俺がそう言うと、首を少し傾げてカールが問いを発する。
「どういうことだい?」
俺はニヤッと笑いながら、答えを告げる。
「ジェフはどっちとも付き合う。つまり、二股になるってのに賭けるのさ」
俺のその返答に対し、カールは目を見開いて驚きながら感想を述べる。
「おいおい……。あのウブすぎるくらいウブな中隊長だぜ? いくらなんでも、そんな高等な恋愛テクニックが使えるはずがないだろう?」
俺は首を振りながら肩をすくめ、適当にあしらっておく。
「分かってないなぁ。だから、面白いんじゃないか。その方が、賭けが盛り上がっていいだろう?」
俺がそう言うと、何を勘違いしたのか、カールが目を輝かせて食いついてくる。
「そうか! お前もお祭り騒ぎの楽しさに目覚めたか!! だよな! 場は盛り上げてなんぼだよな!!」
俺はその勢いに若干押されてしまい、お、おう……、と曖昧に相槌を打っておく。
この調子なら、誰も二股には賭けそうにないな。これなら、俺の一人勝ちになりそうだ。
俺はこれから入る臨時収入に思いをはせ、さて、何に使うかなと、早くも勝った後の算段を始めた。