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SOLID STATE ANGEL

第63話 禁忌

 やがて本日の戦闘を終え、魔物の駆除もあらかた終えた俺達は帰投した。

 そうすると、俺とセシルに連隊長からの出頭命令が下った。新帝国の内情に詳しいセシルの意見が聞きたかったのは、連隊長も同じだったのだ。

 それから出頭した俺達に、アーロン連隊長は早速本題を告げる。

「セシル嬢に問いたい。新帝国の内部で何が起こっているのか、心当たりはないか?」

 それに対し、セシルは表情を全く変化させずに答える。

「私も最近の新帝国の内情については知りません。しかし、お父様、いえ、マクシモがやりそうなことであれば、推測はできます。あくまで推測ですが」

「それで構わないから言ってみてくれ」

 そうすると、セシルは若干の間をあけた。あれは、少し悩んでいる表情だ。

「……。おそらくですが、マクシモは禁忌を犯したのではないでしょうか?」

「禁忌?」

 アーロン連隊長は首を傾げる。俺もすぐには分からなかったが、しばらくするとあることに思い至り、背筋が凍り付く。

「まさか……」

 俺が顔を青ざめさせ、思わずうなってしまうと、連隊長は目線で何に気づいたのか述べよと言ってきた。

「広くヒム族全体に知られている禁忌です。特に学者たちの間で根強く昔から信じられてきた禁忌、と言えば、心当たりがありませんか?」

 しばらく考えるそぶりを見せていた連隊長だが、やがて俺と同じ結論に至ったらしい。顔を青ざめさせ、連隊長も同じようにうなる。

「まさか……。あの禁忌か?」

 セシルは黙って頷き、肯定した。

 この大陸では、ずっと昔から広く言い伝えられている禁忌が、一つだけ存在する。


 『動物を魔物に変えてはならぬ』


 この禁忌は、もともとは上位アルクが先祖代々伝えてきたものらしい。それをアルク族の里を訪れていた魔法研究家が聞きつけ、ヒム族の間にも広まったものだと言われている。

 そして、上位アルクは非常に長い寿命を持つことが知られていて、千年を超えて生きる個体も珍しくないと言われている。

 そんな彼らが、先祖代々と言っているのだ。

 これは、それこそ神話の時代に、神々から直接教えられた禁忌に違いないと言われている。

 そのため、どんなに時代が進み、魔法工学が発展しようとも、この分野の研究だけは誰も手を付けなかった。

 しかし、あのマクシモであれば。

 あの、神様気取りの機械であれば、そんな禁忌などお構いなしだろう。

 俺はそれにうんざりとしながら、これからのことについて意見を述べる。

「なんにしても、これからの対処法を検討するように上申した方がいいでしょう」

「対処法とは?」

 連隊長は分かっていないようなので、俺は現状の深刻さを説明する。

「現在までのところ、魔石などの資源の産出量の問題で、敵の兵器の増産は限られていました。しかし、新帝国からあふれるほどの魔物が確認されたのです。少なくとも魔石に関しては、ほぼ無尽蔵に入手されてしまうと考えなくてはならないでしょう」

 俺のその指摘に連隊長もうんざりとしているようで、これからもっと上と相談してくると言っていた。

 そして俺達はその場を辞し、これからは厳しい戦いになりそうだと気を引き締めなおしながら、仲間達のもとへと戻った。