先祖返りの町作り(再調整版)
第90話 合同お祝い会
2週間が過ぎ、いよいよ合同お祝い会の日になった。
外では既にタダ酒がふるまわれており、その喧噪が、この館の中まで聞こえている。最初は身内でお祝いという事で、私の工房の弟子達や高等学校の先生達からのお祝いの言葉をいただく。
ちなみに、私が断固として辞退したため、お祝いの品は誰も持って来ていない。私のお願いを快く聞いていただいたお礼のためにも、一人ずつ祝辞をきちんと受ける。
ネリアの方にもお祝いを述べる列ができているが、挨拶が終わった官僚達の中には、ヤケ酒としか思えないような自暴自棄な飲み方をしているものが、かなりの人数で見える。
私は、ネリアの父親であるエストに、その理由を尋ねる。
「エスト。なぜ彼らは、あんなに無茶な飲み方をしているのですか?」
「ああ。あれですか。失恋のためですので、今日だけは大目に見てあげてください」
「え? ネリアはモテるとは聞いていましたが、今まで浮いた話がありませんでしたよね? なのに、あんな人数が同時に失恋しているのですか?」
そう言うと、エストはクスクスと笑いながら、真相を語ってくれる。
「私も部下から聞いたのですが、ネリアは、どんな身分のものに対してもとても奥ゆかしい態度でしょう?」
「そうですね」
「ですのでネリアは、あれこそが理想の姫様だとか、あれこそが理想の嫁だとか言われていたそうで、密かに狙っていたものが多かったとか」
「でもそれなら、もっと浮いた話があったはずだと思うのですが……」
「なんでも、理想的な女性過ぎて、直接交際を申し込むのを遠慮して、お互いにけん制し合っていたそうです」
そこまで聞いて、私も納得した。
「なるほど。高嶺の花過ぎて、交際を申し込むのを躊躇している間に、一番の堅物と思われていたレオンさんにかっさらわれてしまった、という訳ですか」
私による異世界独自の表現を聞いた、エストが質問する。
「高嶺の花とは、どういう意味ですか?」
「あまりに素敵な女性過ぎて、あこがれるだけで、自分とは程遠いと思ってしまう女性の事を、私の故郷ではそう表現するのです」
「それは、とても素敵な表現ですね」
そして、内輪でのお祝いが終わり、領民にも感謝の気持ちを伝えるために、外に出て顔を見せようと扉へ向かった。
扉を開けた私の姿を見た領民達は、我先にと私に向かって、お祝いの言葉を述べる。
それが、あまりにも加熱し過ぎてしまい、私が領民に取り囲まれそうになった時点で、警備兵の傭兵さんが大声で怒鳴った。
「皆落ち着け! これでは、初代様がお怪我をされてしまう! 本当に初代様をお祝いしたいのであれば、全員、2ベク以内には近付くな!!」
そう言われた領民達は、さっと私の周囲から少し距離を取り、進行方向の道沿いの人込みが割れていく。
私の体を気遣ってくれるその姿が、とてもありがたく感じられ、感謝の気持ちが込み上げてくる。
その時、少し不思議に思った事が、ふと口からこぼれ落ちた。
「私は、これほどまでに領民に慕われるほどの事を、本当にやって来たのでしょうか……」
それを聞いた周囲の警備兵さん達が、口々に説明してくれる。
「もちろんですぜ」
「ああ。この町が発展しているのも、好景気がずっと続いているのも、初代様のおかげだしな」
「そのおかげで、税率が低いままで据え置かれているってのも、加えてくださいや」
それを近くで聞いていたエストも、肯定する。
「元日に、シゲルが言っていたでしょう? おじい様は、この領地と民の宝なのです」
そんな話を聞いた私は、できる限りの感謝の気持ちを表したいと思い、人込みが割れてできた道沿いに歩き、領民の皆にお礼を述べながら町を練り歩いた。