先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第203話 夢の摩天楼
セリアの結婚式から、二年ほどの時が経過していた頃。
機関車の研究も順調に推移していて、現在では実物大の試作一号機を使い、問題の洗い出しと改良が進められている。
また、最近になって、セリアが出産していた。
生まれた子供は男の子で、後にバートと名付けられた。セリアに似て静かに泣く赤ちゃんだ。
(両親のどちらに似ても、誠実で実直な青年に成長しそうですね)
私はそんな感想を抱いていた。
そして、今日。ダイガクで定期の研究発表会が開かれている。
そのうちの一つの研究発表が始まってすぐに、私はその内容に釘付けとなる。
「この新しい建材は、主に石灰石と粘土から作られています。これは時間を置くと固まる性質がありますので、レンガの間に塗りつけますと、しっかりと固定されるようになり……」
私はここまでの説明を聞いて、すぐにピンとくるものを思いつき、無意識のうちにガタリと音を立てて立ち上がってしまっていた。
「名誉学長? どうされたのですか?」
「す、素晴らしい……」
感動に打ち震える私の姿に、会場中の視線が集まってしまっていたが、そんなことに気を回す余裕は全くなかった。
「これは素晴らしい発見ですよ!!」
思わず大声で叫んでしまった私の勢いに押され、発表者のキョウジュはのけぞりながら確認を取る。
「ど、どのように素晴らしいのでしょうか?」
「間違いありません! これは『セメント』です! 建築の歴史が変わる大発見ですよ!!」
「せ、せめんとですか?」
私はここでようやく、困惑している発表者の様子に気づくことができた。よくよく周囲を見渡してみれば、みんな一様に困惑が隠しきれていない。
私はここで一つ深呼吸をして、自分を落ち着かせた。
「すいません……。あまりにも素晴らしい発見でしたので、興奮が抑えられませんでした」
「これの何がそんなに素晴らしいのでしょうか?」
「この技術を発展させていけば、天高く聳え立つような、巨大建造物も作れるようになるのです」
私は意識して気分を落ち着かせ、なるべくまくし立てないように気を付けた。
しかし、それでも興奮を隠しきれない私の様子に、若干、引き気味になりながら発表者の彼が発言を続ける。
「これに、そこまでの強度はないと思うのですが……」
「ええ、ええ。これ単体ではそうでしょう。ですが、これを材料とした『コンクリート』を作れば、建築資材として非常に優秀なものになります」
「は、はぁ?」
「あなたも言っていた通り、これ単体であれば、レンガなどの石材の繋ぎにしか使えないでしょう。ですが、これに砂と砂利を混ぜると、それらを強固に接合するようになりますので、とても頑丈な壁が簡単に作れるようになります」
コンクリートさえ作れたら、様々なものの建築が容易になる。
単純に使ったとしても、将来的に建設が必要であると思われる第三街壁が、今よりもかなり素早く低コストで作れるようになるだろう。
下水道の施設なども、もっと簡単に拡充ができるようになると考えられる。
夢が広がる研究内容だ。
「そして、その骨組みとして鉄を内部に埋め込むようにすると、『鉄筋コンクリート』も作ることができるようになります。非常に頑丈な壁や床が容易に作れるようになりますので、天に届かんばかりの高層建築も可能になるはずです」
鉄筋コンクリートがあれば、高層ビルもやがては作れるようになるだろう。
「ただ、『セメント』や『コンクリート』の研究は奥が深いのです。ほんの少し質が下がるだけでも強度に差が出てきてしまいます。ですので!!」
私は思わずバンッと強く机を叩き、勢いよく説明を続ける。
「私の持てる限りの権限とコネを最大限活用し、巨額の研究開発費を用意して見せましょう!! 最優先研究課題として、領主のイサミに、私が、直接、ねじ込みますので、頑張って研究を継続してくださいね!!」
話が、突然、大きくなってしまったため、みんな驚いていたのだが、そんなことは些細なことだろう。
「さあ、この都市をもっともっと発展させましょう! 目指せ『摩天楼』! 目指せ『コンクリートジャングル』! なんとも夢が広がる研究ではないですか!!」
私のあまりにもなテンションの上がり具合に、周囲の人たちは、ザワザワと落ち着きがなくなり始めていた。
「マテンロウ? じゃんぐる? 誰か意味を知っているか?」
そんな会話がヒソヒソと交わされていたのだが、興奮しきってしまった私には、もはや聞こえてはいなかった。