先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第12話 新魔法の開発
幼児の頃とは違い、いろいろとお手伝いをしてみたり、大人同伴であれば狩りに行けたりもするので、昔のようにひたすら暇を持てますという事はなくなった。しかし、魔法の勉強がなくなってしまった分だけ時間が余ってしまう。
そういう時は一人でこっそりと森に分け入り、思いついたオリジナル魔法や改良魔法の実験をしている。
成功した代表例は『ウォーターカッター』。
水魔法を使って出した水球に対して風魔法を利用した圧縮を繰り返し、高圧水流でものを切り裂く。前世の人であれば、一度は考えてしまうアレをやってみた。
しかし、水だけを圧縮したのでは、思うような結果が得られなかった。
前世で切断加工に使われているウォータージェットであれば、研磨剤として細かく砕いたガーネットを水に混ぜて吹き付けている。
つまり、微細なレベルで見ると、実は切り裂いているのではなく、研磨剤を連続して衝突させ、削り取っている事になる。
この事実を何度かの試行錯誤の末にようやく思い出せた私は、土魔法を解析した結果を利用して、微細な石も混ぜてみる事でなんとか成功にこぎつけた。
ただ、ウォータージェットで使われているガーネットは、とても硬い物質だ。そのため、ただの石だとそのあたりが足りていないらしく、岩等は切断できなかった。
それでも、木ぐらいならどうにか切断できるまでには改良できた。
水魔法、土魔法、風魔法の三種類を複雑に組み合わせた魔法式はそれなりに長くなっていて、その上、やってみるとかなり大量の魔力が必要な事が判明した。
だが、この魔法を使えば、レアアイテム扱いになっている斧が不要になる。まあ、魔法式をいじるどころか、完全なオリジナル魔法を創作している事が祭司長にバレたら後が怖いので、誰も見ていない時限定になるのだが。
開発に失敗した代表例は『フライ』の魔法。
(ファンタジー世界の魔法には、飛行魔法が鉄板として必要になりますよね?)
そんな軽い気持ちで開発してみた。
これをしてみようと思いついたのは、風魔法を体の直前に指定して使ってみても、自分が後ろに吹っ飛ばない事に疑問を感じたからだ。
現実問題として、この魔法には反動がない。
そして、魔法式にはまだまだ謎な部分が多い。
特に、自然現象を直接操作していると思われる部分には、解析があまり進んでいない。そして、この部分は、複数の命令セットで実行している場合が多々ある。
これらの事から、風を操る命令セットの中には、どこかに反作用と呼ばれる反動を消し去るものがあるのではないかと仮説を立てた。
ちなみに、魔法式の流れを理解すると、魔法名を読み上げるだけで起動するという事になっているが、効果が不明な命令セットが存在していても魔法が発動するのか? という疑問を持たれる方もいるのかもしれない。
これもまた仮説の域を出ないのだが、おそらくは、一つ一つの命令の詳細な内容を理解していなくても、フローチャートと呼ばれる処理の流れを図にしたものが書ける程度に理解していれば、毎回魔法式を読み上げなくても魔法が発動するのだろうと考えている。
私はリバースエンジニアリングと呼ばれる技術を応用し、魔法式の機能を特定する作業をしばらく続けた。その結果、なんとか目的の命令が判明した。
当初に予想していたよりもかなりの時間と手間がかかったが、意気揚々と魔法式の試作を行い、目指せアイ・キャン・フライ。
空の彼方に飛んでいかないように、イベントハンドラを応用して、風力の増減や方向等を調整できるように、これまたかなり複雑なプログラムを作り上げた。
その結果、何もない地面に腹ばいになって横たわり、体をまさぐり続ける不審者の出来上がり。
こんな姿を誰かに見られたら、軽く死ねるなと思いながらも、実験を続けた。
だが、かなり強い風にしても浮き上がるほどではなかったので、開発はあきらめざるを得なかった。
私はまだ子供であるため、一人だと、あまり森の奥までは入らせてもらえない。
その状態で体が浮き上がるほどの強い風を巻き起こしてしまうと、間違いなく周囲にバレてしまう。そして、それはそのまま祭司長の耳に入ってしまい、それ以後はこっそりと魔法開発なんて、させてもらえなくなるのは確実だ。
まあ、空を飛ぶのは難しくても、緊急時に自分を後ろに吹っ飛ばすだけでも有用そうに思えるので、里を出た後に堂々と開発を継続する予定だ。
ちなみに、これらの魔法の発動トリガーは、そのまま前世の言葉を使っている。そのあたりの自重は、ぺいっと投げ捨てた。